あれはまだ、穏やかで楽しかった日々。
 夜中にこっそり屋敷を抜け出して、テッドと流星群を見に行ったことがあった。
                                            
                                            
                                            
                                            
                                       幻想水滸伝
                           一生のお願い

                                            
                                            
                                            
                                            
「これだけの流れ星があったら、いくつ願い事が叶うんだろうな?」
「さぁ?」
「なんだよユリウス、ノリ悪いぞ。お前は何か願い事とかないのかよ」
「あるよ」
「だったら――」
「でも僕の願いは、テッドにしか叶えられないから」
「え?」

 不思議そうに僕を見るテッドの顔が、流れ星の光に照らし出されて。
 それがどこか幻想的で、儚くて。
 僕は途端に、怖くなった。


 時々、テッドはすごく寂しそうな顔をする。
 僕の前ではいつも元気そうに笑っているけど、でも僕は知ってるんだ。

 ―――テッドは、きっといつかまた旅に出てしまう。

 その時、彼は僕にも黙って行ってしまうのだろう。たった一人で。
 テッドが隠したがっていることを、無理に聞き出したいと思ったことは一度もない。
 彼が引いている一線を僕の方から越えるのは、何だかいけないことのような気がしていたから。

 だけど、テッドが一人で苦しむのは嫌だ。
 テッドと離れるのは嫌だ。
 また独りぼっちになるのは嫌だ。

 こんな子供じみた我が儘、いつもはテッドに言えないけど。
 だけど今日は、言わずにはいられなかった。
 だって、流れ星と一緒にテッドが消えてしまいそうだったから。
 隣にいる温かな存在を、どんなことをしてでも繋ぎ止めておきたかったんだ。


 僕は、草むらに放り出した手をぎゅっと握り締めた。

「テッドとずっと一緒にいたい。それが僕の、たった一つの願い事」

 こんなことを言うなんて、卑怯だってわかってる。
 この言葉がテッドを縛り付けてしまうこともわかってるんだ。
 それでも、譲れない想いは僕にだって在るから。


 僕の願い事に、テッドはしばらく目を丸くしたまま固まっていたけど。
 やがて、へにゃっと破顔したかと思えば、僕の額を指で容赦なく弾いた。

「…った!もうっ、何するんだよ!」
「いや、馬鹿だなぁと思って」
「む、馬鹿って何さ。僕は…!」
「お前じゃなくてさ。俺が」
「……は?それってどういう…―――わっ!」

 言い終わる前に、テッドに突然抱きしめられる。
 思った以上に強いその力に少し驚いたけど、触れ合う場所から伝わる温もりにほっとして、僕も彼の背中にそっと手を回した。

「俺の願い事も、お前と同じだってこと」
「………それ本当?」
「あぁ」
「ほんとに本当?ずっと一緒にいてくれる?『一生のお願い』だからね?」
「何回聞くんだよ。お前は子供かっての」
「だって……」
「――そ・れ・に」
「それに?」
「人の十八番を盗るなこのやろっ!」
「! いたたっ、痛いよテッド!」

 抱きしめていた腕を放し、テッドが僕の頬を左右に軽く引っ張る。
 それを恨めしそうに睨みつけると、テッドはにっと笑って、そのまま僕の両肩に手を置いた。

「だからさ、一緒に願おうぜ。二人で願えば、一人で願うよりも強く星に届くかもしれないだろ?」
「うんっ!」



 今思えば、あの時テッドは、何を思っていたのだろう。
 心の中では、どんな顔をしていたのだろう。
 右手に宿した呪いのことを、考えなかったはずはないのに。
 それなのに、どうしてあんな風に笑っていられたのか、今の僕にはまだわからない。

 あの時願った、僕の最初で最後の『一生のお願い』を、テッドは叶えてくれなかったけど。

 それでも、この右手の紋章に、テッドの魂が在るというのなら。
 僕のすぐ傍で、見守ってくれているというのなら。


『一生のお願いだ!この紋章を守ってくれ……!!』


 彼の何度目かわからない『一生のお願い』を、僕は叶える。
 だってこれは、僕とテッドの絆の証だから。
 絶対に、守ってみせる。
 誰にも渡さない。傷つけさせたりしない。
 この躰が朽ち果てるまで、ずっと共に生きていこう。


 だからお願いだ、ソウルイーター。
 どうかもうこれ以上、僕の大切な人たちを奪わないで。争いを呼び起こさないで。
 僕がずっと、傍にいるから。



 ―――…一生の、お願いだよ。





                                           END