彼は、人形のような自分に命を与えてくれた。
輝くような笑顔も、
涙の温かさも、
仲間や家族の愛しさも、
続いていく日常がどれだけ幸せなことなのかも、
教えてくれたのは、彼だった。
彼は、自分にとって、全てだった。
幻想水滸伝
旅路の果て
「テッド!!」
崩れ落ちるように地に伏した俺を、ユリウスが抱き起こす。
うっすらと目を開けると、すぐ近くに、今にも泣き出しそうに歪められた親友の顔があった。
うっすらと目を開けると、すぐ近くに、今にも泣き出しそうに歪められた親友の顔があった。
「………そんな顔するなよ……。俺が、決めたことだ……」
「どうして……どうしてこんな…っ!」
「どうして……どうしてこんな…っ!」
違うんだ。
そんな顔、させたくないのに。
いつだって、笑っていて欲しいのに。
「………なぁ、笑ってくれよ……。俺、お前の笑った顔が……好きなんだからさ……」
「…何、言ってるんだ…っ。 笑えるわけ――」
「……頼むよ。一生の……お願い、だ……」
俺はずるい。
俺の頼みをお前が断れないと知ってて、こんなことを言うのだから。
「………」
ユリウスは、しばらく戸惑った様子で俺の顔を見ていたけど。
やがて一度だけ強く目を閉じて―――…笑った。
春の風のように穏やかで、冬の太陽のように優しいその笑顔に、俺は何度救われただろう。
やがて一度だけ強く目を閉じて―――…笑った。
春の風のように穏やかで、冬の太陽のように優しいその笑顔に、俺は何度救われただろう。
でも。
温かい涙があることを教えてくれたのも、お前だったんだよな。
『…どうしてお前が泣くんだよ』
『だって…っ!あいつら、テッドとは付き合うなって…素性の知れない奴を信じるなって…っ。なんでそんなこと言うんだ!テッドのこと、なんにも知らないくせに…っ!』
『それで殴ったのか?……お前馬鹿だろ』
『馬鹿って言ったやつが馬鹿なんだっ。テッドの馬鹿ぁ~…』
『ありがとな』
『え?』
『俺のために殴ってくれたんだな。手、痛かっただろ?』
『…痛くない。テッドの悪口を言われた方が、ずっとずっと痛かった』
『そっか。……あーもうほらっ、これで涙拭けよ』
素直で、純粋で、何者にも侵されることのない、まっすぐな心。
誰に対しても惜しみない優しさを向け、いつも一番欲しい言葉をくれる。
俺はそんなお前の隣にいられたことを、誇りに思う。
「………ユリウス。300年の中で、お前だけが……親友……だった」
今まで心を許しそうになった人は、何人もいたけど。
それでも、冷え切った俺の心を溶かし、癒してくれたのは、お前だけだった。
失うことをこんなにも怖いと思ったのは、お前が初めてだったんだ。
失うことをこんなにも怖いと思ったのは、お前が初めてだったんだ。
「僕も…っ、僕もテッドだけだっ。もう僕にはお前しか…っ!」
「………ありがとな。俺、お前のこと……大好き、だったよ……」
大切で、
愛しくて、
どんなことをしてでも守りたくて、
どうしても失いたくなくて、
いつまでもそばにいたくて。
気がつけば、こんなところまで来ていた。
引き返そうと思えば、いつだってできたはずなのに。
でも俺には、そんなことすら考えつかなかったんだ。
引き返そうと思えば、いつだってできたはずなのに。
でも俺には、そんなことすら考えつかなかったんだ。
「テッド…ッ!」
瞳の奥を滲ませながら、ユリウスが俺の右手を両手で強く握り締める。
その震える声が、
その手のぬくもりが、
俺の脳裏に、忘れかけていた遠い記憶を呼び起こした。
『まってお兄ちゃんっ!おいていかないで!!』
『―――…テッド』
『―――…テッド』
それは、生まれ育った村を焼き尽くす業火の中。
必死に縋り付く俺の手に、さっきまで自分が身に付けていた手袋を嵌めると、“お兄ちゃん”は俺の右手を両手でそっと包み込んだ。
必死に縋り付く俺の手に、さっきまで自分が身に付けていた手袋を嵌めると、“お兄ちゃん”は俺の右手を両手でそっと包み込んだ。
『僕と君は、いつかまた……必ず会えるから』
『ほんと? 絶対また会える?』
『うん。……そのとき僕らは、きっと仲のいい友達になれる。一緒に笑って、遊んで、たまには喧嘩もして。そんな大切な………“親友”になれるよ』
『ほんと? 絶対また会える?』
『うん。……そのとき僕らは、きっと仲のいい友達になれる。一緒に笑って、遊んで、たまには喧嘩もして。そんな大切な………“親友”になれるよ』
そう言って、“お兄ちゃん”が俺を抱き締める。その強く優しいぬくもりに、俺の目からはまた涙が零れて。
『だから、明日を信じて生きて欲しい。どんなに辛くても、諦めないで………』
そして、“お兄ちゃん”は消えた。
眩い光の玉が、幼い俺から彼を奪っていったのだ。
300年という孤独の中、気づけばいつもあの背中を探していた。
普通の人間が、そんなにも長い年月を生きられるはずがないのに。
それでも、「また会える」と言った彼の泣きそうな笑顔が、嘘だとは思えなかったから。
どうしてそんな顔をしていたのか、理由を知りたいと思ったから。
だから俺は、歩き続けた。
旅路の果てに、きっと彼が待っていてくれると信じて。
“お兄ちゃん”の言葉が、存在だけが、俺の生きる糧だったんだ。
旅路の果てに、きっと彼が待っていてくれると信じて。
“お兄ちゃん”の言葉が、存在だけが、俺の生きる糧だったんだ。
そして、今。
あの時の“お兄ちゃん”と同じ顔をしている親友が、すぐそばにいる。
深い霧が、一瞬にして晴れたようだった。
深い霧が、一瞬にして晴れたようだった。
あぁ…―――俺は、とっくに辿り着いていたんだな。
「………お前に会えて、本当に…よかった………」
“彼”から譲り受けた手袋をした手で、ユリウスの頬を撫でる。
生まれてきてくれてありがとう。
会いに来てくれてありがとう。
苦しかった300年間も、ただお前に会うためにあったのだと思うと、悪くない。
「………さぁ……今度こそ本当に…お別れ、だ………」
「――ッ!嫌だよテッド!死んじゃ嫌だ!!」
ごめんな。
お前を置いて逝くことしかできない俺だけど。
それでも俺は、お前に生きていて欲しい。
どんな形でもいいから、生きていて欲しいんだよ。
「………ユリウス……元気、でな……。俺の…分も……生きろ、よ……………………」
「…………テッ、ド…?」
さよなら。
この世界の誰よりも、何よりも大切だった、たった一人の親友。
「――テッド…ッ!!!」
忘れないで。
俺は、お前のすぐそばにいるから。
俺は、お前を見守り続けるから。
だから、お前は一人じゃない。
俺は、お前のすぐそばにいるから。
俺は、お前を見守り続けるから。
だから、お前は一人じゃない。
この世界が、お前にとって優しい世界でありますように。
お前の長い旅路が、光に溢れていますように。
今はただ、それだけが俺の願い。
神に願うだなんて、俺らしくないけど。
それでも、願わずにはいられない。
俺のかけがえのない親友を、
誰よりも寂しがりやなこの子供を、
どうか守って。
一生の、お願いだよ――――――。
† END †