雨は嫌いだ。
あの夜を思い出すから。
あの夜を思い出すから。
ただ逃げ出すことしかできなかった。
後ろを振り向くこともできなかった。
後ろを振り向くこともできなかった。
やまない雨が体を叩きつける。
何もできなかった自分を戒めるように。
何もできなかった自分を戒めるように。
幻想水滸伝
雨の檻
外は今日もあいにくの空模様。ここ数日、雨はやむ気配を微塵も見せずに降り続いている。
―――まるで誰かが泣いているようだ。
新同盟軍の軍主カナタは、柄にもなくそんなことを考えながら城の廊下をのんびりと歩いていた。
普段は活気に満ち溢れたこの城も、こんな日はしんと静まり返っている。
カナタは雨が嫌いではなかった。
しとしとと降る雨の音はとても風情があって、時間を忘れて耳を傾けてしまう。霞んだ景色もどこか慣れ親しんだものと違って見えて、それが何だか新鮮で嬉しくなる。
カナタは雨が嫌いではなかった。
しとしとと降る雨の音はとても風情があって、時間を忘れて耳を傾けてしまう。霞んだ景色もどこか慣れ親しんだものと違って見えて、それが何だか新鮮で嬉しくなる。
「…あれ?」
ピチャン、ピチャンという水音に合わせて、階段を軽快に下りていた時だった。踊り場の窓から雨の向こうに人影が見えて、カナタは小首を傾げる。
「こんな雨の中で………誰だろう?」
不思議に思い、気づけば足は階段を駆け下りて真っ先に外に飛び出していた。
冷たい雨が体に降り注ぐ。
「こんな雨の中で………誰だろう?」
不思議に思い、気づけば足は階段を駆け下りて真っ先に外に飛び出していた。
冷たい雨が体に降り注ぐ。
「―――…マクドールさん?」
人影に近づいてみると、霞んで見えていた紅い服が徐々に形を成す。
雨の中に一人佇んでいたのは、ユリウス・マクドールだった。
いつも彼が着用している若草色のバンダナは外され、露わになったその艶やかな黒髪からは、ポタポタと雫が滴り落ちている。
どれだけ長い間そこに立っていたのだろうか。服はもはやずぶ濡れだ。
雨の中に一人佇んでいたのは、ユリウス・マクドールだった。
いつも彼が着用している若草色のバンダナは外され、露わになったその艶やかな黒髪からは、ポタポタと雫が滴り落ちている。
どれだけ長い間そこに立っていたのだろうか。服はもはやずぶ濡れだ。
「こんなところで何やってるんですか!?」
肩に手を置いて顔を覗き込むが、彼は何も答えなかった。その漆黒の瞳はどこか虚ろで、ここではない何かを見ているようだ。
「このままじゃ風邪ひいちゃいますよ! 中に入りましょう!」
そう言って腕を引こうとするが、ユリウスは少しも微動だにしなかった。まるで糸の切れた人形のように、無表情のまま立ち尽くしている。
「マクドール、さん…?」
肩に手を置いて顔を覗き込むが、彼は何も答えなかった。その漆黒の瞳はどこか虚ろで、ここではない何かを見ているようだ。
「このままじゃ風邪ひいちゃいますよ! 中に入りましょう!」
そう言って腕を引こうとするが、ユリウスは少しも微動だにしなかった。まるで糸の切れた人形のように、無表情のまま立ち尽くしている。
「マクドール、さん…?」
こんなに憔悴した彼は、今まで見たことがない。
どんな時も毅然とした態度を崩すことはなくて。穏やかな微笑を絶やすこともなくて。まさに聖人君子と呼ぶに相応しい、絶対の覇気を纏っているはずなのに。
どんな時も毅然とした態度を崩すことはなくて。穏やかな微笑を絶やすこともなくて。まさに聖人君子と呼ぶに相応しい、絶対の覇気を纏っているはずなのに。
明らかに様子がおかしいユリウスに、カナタはかける言葉を失う。
雨が、いっそう勢いを増した気がした。
雨が、いっそう勢いを増した気がした。
「………」
しばらくして。
一向に動く気配を見せないユリウスに観念したのか、カナタが彼の肩から力無く手を下ろした。
そして、せめて毛布だけでも取ってこようと城に足を向けた時だった。
「…………あの夜も…………」
「え?」
雨音に隠れるように、ユリウスが前触れもなくぽつりと呟いた。カナタは思わず勢いよく振り返る。
「………あの夜も、こんな風に雨が降っていたんだ」
「あの夜?」
それが何を意味しているのかわからずに眉を顰めると、ユリウスがふと天空を仰ぎ見た。
「………あいつは恨んでいるかな…………あの時、逃げ出すことしかできなかった僕を………」
「ッ!」
その独白に、カナタの背筋に冷たいものが走った。
その独白に、カナタの背筋に冷たいものが走った。
3年前の解放戦争について、詳しいことは知らない。ただ、以前ルックが少しだけ話してくれたことがある。
ユリウスには、唯一無二の親友がいたことを。
ユリウスには、唯一無二の親友がいたことを。
呪いの紋章ソウルイーターを託し、自分を囮にしてまでユリウスを逃がした彼を、ユリウスは最後まで救い出そうとしていたのだと。
しかし、結局は彼も、ユリウスを置いて逝ってしまったのだという…―――。
しかし、結局は彼も、ユリウスを置いて逝ってしまったのだという…―――。
カナタも、今まさにかけがえのない親友と敵対している。だからその話を聞いた時は、胸の奥がひどく苦しくなったのを覚えている。
それでも、ユリウスの中でそれはもう過去のことなのだと思っていた。すでに乗り越えることができたのだと。
だって、彼は微笑うから。いつだって微笑っているから。
それでも、ユリウスの中でそれはもう過去のことなのだと思っていた。すでに乗り越えることができたのだと。
だって、彼は微笑うから。いつだって微笑っているから。
そう、思っていたのに。
彼は未だ囚われ続けているというのか。親友を置いて逃げざるを得なかったあの夜に。『雨』という檻の中に。
「――――……テッド………」
語りかけるように、静かにその名を紡ぐ。
そっと伏せられた睫から零れた雨の雫が、その頬に綺麗な弧を描いた。それがまるで、雨ではない別のものに見えて。
彼を見つめたまま、カナタは呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。
雨はまだ、やまない。
† END †