幻想水滸伝
背中合わせ
 
 
 
「どこへ行くの?」
 まさにあと一歩で城門を出ようかという時だった。背後から間髪入れずに高めの声がかかる。
 その声に答えるどころか振り向きもせずにいると、ぽすっ、と何者かが背中を預けてくる。それが誰かは確認するまでもない。
「祝宴は始まったばかりだよ?もっとも、主役のいない宴がどこまで盛り上がるか見物だけれど」
「………アンタが言えた台詞じゃないな」
「あはは、違いない」
 肩を竦めたのが、背中を伝って感じられた。
 それが僅かにこそばゆくて、努めて冷静に口を開く。
「…………目的は果たした。あとは組合に帰るだけだ」
「組合、か」
「?」
 小さな呟きに目だけを後方に向けると、普段よりも一段低い声音が返ってきた。
「ハルモニアは真の紋章狩りをしているらしいね?」
「……あぁ」
「僕の『コレ』も狙っているのかな」
「…………さぁな」
「君もいずれは『コレ』を狩りに来るのか?」
「………」
 その問いかけに、無言で答える。
 問うた方もそれは予想の範疇だったようで。感情の見えない声色で淡々と話を続けてくる。
「僕はね、昨日の仲間が今日も仲間であるとは微塵も思っていないんだ。それは3年前にも痛いほど思い知ったし。現に今回は、レオンもカゲもハイランド陣営にいたようだしね。…あ、別にそれを責めるつもりは毛頭ないよ?」
「………」
「でも、物陰からいきなりバン!じゃさすがに僕もお手上げだからね。釘を刺しておこうと思って」
「…釘?」
 何だそれは、と軽い気持ちで問い返すと。
「――…『コレ』を狙う人間は、誰であっても容赦しない。その魂をすべて喰らい尽くすまでだ」
「…!」
 背中から感じた凍てつくような殺気に、心臓が早鐘を打つ。これは、畏怖だろうか。
「ま、今後君と武器を交えなくて済むことを祈ってるよ」
「………俺の武器は飛び道具だ。交えることはできない」
「ふふっ、そうだったね」
 滲み出る汗をそのままに、遠回しに交戦の意志がないことを告げる。
 ――あくまで今のところは、であるが。
 それを笑い飛ばした声は、先程の殺気が嘘のように明るかった。
「さて、と。そろそろ宴の席に戻ろうかな。実は僕もあまり気が乗らないんだけどね」
 背中から温もりが離れる。
「――元気で」
「………あぁ」
 笑ってしまうほど短い挨拶を交わして、それぞれ別の方向へと歩き出す。
 どちらも、結局一度たりとも互いの顔を見ようとはしなかった。
 
 
 
  END