昔の家 | サバンナとバレエと

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ブラジルからの便り

日本に留学していた頃
是非、子供の頃住んでいた家に訪れてみたいと思っていた。

金沢から東京へ行く機会は何回かあったのだが
幼年時代を過ごした練馬までいく機会にはなかなか恵まれなかった。


あの年の12月、
東京で研修の後
毎年、日光で行われる留学生達のクリスマス催しがあり
東京へ出向いた。



新宿へ向かう夜行バス。
突然、思い立って練馬で下車。
朝5時だった。




練馬駅のコインロッカーに荷物を預け
桜台まで電車に乗り
まだ夜明けていない冬の朝の中を歩いた。

記憶にたどって歩き
小学校までは辿り着いたが
それからはすっかり迷ってしまった。


何千回も歩いたはずの道
すっかり変わってしまって。。。

子供の頃、よく遊んだ公園に辿り着いた時は
すっかり明るくなっていた。


ブランコや鉄棒。
ベンチ。。。
たしか同じもの。。。

公園をでて
たしかこの辺と探し歩いたけれど
方向音痴の私はまた迷ってしまった。


とつぜん
3本並んだ大きな樹が。。。

突然
あの景色が心の中の景色を重なった。
まるで薄い紙に描かれた
二枚の絵を重ねるように。。。


。。。。。。。。。。。。。。

迷うということは
まるで
空間にあっちこっち飛び跳ねるような感じがする。
思い込んでいることが間違っていると気づく度に
イメージがくるくると向きを変える。

そして
見つけ出した瞬間
目の前の現実と
イメージがふっと重なる。。。

。。。。。。。。。。。。。。。

ようやく見つけ出した家は
幼年時代からあまり変わっていなかった。
同じ形。
同じ色。
庭の松の木も、大きくなっていたが
まるで
昔の友人に会えたように
昔の面影を感じることが出来た。


ただ
家は一回り小さくなっていた。

そして
昔の面影を残しているのに関わらず
よそよそしい様子。。。



冬のしんしんと冷たい朝日の中で立ち止まって
見つめ続けた。
独りぼっちで。。。


いつか
弟と一緒にこのように見つめたいなーと思った。




あの窓。
あのキンモクセイ。
あの塀。。。

よそよそしい絵の後ろに
昔の絵が透き通って見えた。

朝日の中に
突然、幼かった私と弟の笑い声が聞こえた。




一体どんな家族が住んでいるのだろう。。。
と思いながら歩き去った。。。

。。。。。。。。。。。。。。。



近頃
グーゴル ストリートビューで
昔住んだ家を探してみた。

あの練馬の家も
他の数々の家も割合と簡単に見付けることが出来たが。。。

ただ一つ
ブラジルへ来た頃、住んだ家はなかなか難しかった。

道の名は覚えているので
何回も巡り回ったが
モダンな家や
昔は無かった商店街。。。
新しく出来た十字路も。。。

たしかこの辺と探していたら。。。
突然、二枚の薄紙が重なった。

見つからなかったのも無理は無い
あまりにも荒れ果てていた。

よそよそしいなんて感じではない。
実に長い間、愛されることを失った家。
建て直された家が並ぶ近所の中で
独ぼっち耐え忍んで存在している。。。



あの門。
あの塀。
あの窓格子。。。窓には板が打ち付けられているみたい。。。
もしかして誰も住んでいないのでは?
。。。。。。。。。。。。


道路で
あの様な感じの家を出会うたび
ふっと立ち止まることがある
落ちぶれて死んだような様子を見る度、
幸せな家族が住んでいた光景を想像する。

笑い声や
夕食のいい匂い。
家事をする主婦の鼻歌や
太陽の光に輝く花壇。
塀越しに見える
大事に育てられるバラや
現在では無くなった遊びで
戯れる子供達。。。

子供の笑い声が聞こえるような気がする。。。
昔の子供達の幽霊。。。


。。。。。。。。。。。。。。。。。

あの家もそうだった。

両親がブラジルで初めて購入した家。
あの頃、すでに古い家だったけれど
昔風に頑丈なレンガで作られたどっしりした家。

分厚い壁。。。
庭には主の巨大なアボガート樹。

新しい国で新しい生活を始める私達に
どっしりとした安心感を与えてくれた家だった。


低い塀には
一年中花を咲かせるハイビスカスの生け垣。。。

車好きな父は
新しく買った車のために
ガレージに自分で屋根をつけた。

引っ越した時は
新しいペンキ塗り。。。

トロピカルな光に冴えるパスレルグリーン。
門と窓格子は
私も塗った。
白と赤。。。
70年代特有な色彩。。。


。。。。。。。。。。。。。

あの頃は
料理を学びはじめた私が焼く
ケーキの匂いもあっただろう。
バニラの匂い。。。

三輪車で走り回る小さな弟と妹の笑い声。。。

近所の沢山の子供達。。
サッカー
凧揚げ
追いかけごっこ。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。


あの家。。。

40年後
突然巡り会って
語りかけた。。。

ねえ、覚えている?

子供達の幽霊の笑い声が
聞こえたような気がした。

ただし
幽霊は幼かった私達。。。

。。。。。。。。。。。。。


一体これからもこのようなのだろうか。
生きているのみではなく
死んでいく要素も存在しはじめる。

死んだ家
私自身の幽霊。。。