「由紀夫君!どしたの?ボーっとしちゃって・・・
久しぶりに店にきたかと思ったら、視線は遠い海を
見てるしさ~!」
正月も開け、久しぶりに相棒に火を入れ、由紀夫は
海辺のタケシの店に来ていた。
「あ・・・」
「みゆきちゃんとは、どうなのよ?うまく
行ってないの?」
「いや・・・そんな事はないよ・・・彼女の
「いや・・・そんな事はないよ・・・彼女の
お陰で、希望も何もない毎日が嘘のように
変わったよ・・・」
「なら、何で、そんなに元気がないんだよ?」
由紀夫は、しばらく、迷ったような顔をしたが・・
「それがさ・・・」と言いかけたが・・・
「やっぱいいよ・・・お前に言ってもな・・・」
「何だよ~!それ~!」
「この考えの浅いNO天気男に言った所で・・・」
と心の中で、つぶやき・・・
「また、来るよ!」
と店のドアを開け、相棒に跨りエンジンをかけた。
「お~い!由紀夫君~!何が、あったか知らないが
あんまり考え込むなよ~!」
と、タケシの精一杯、気を使った言葉をヘルメット越しに
聞きながら、走り出した。
季節外れのビーチは人影はなく、蒼く澄んだ空からは
海鳥達の声が落ちてくるようであった。
いつものように、宛てもなく走る・・・・
あの夜の出来事が、頭の中で、どんどんと膨らんで来る。
気が付くと、みゆきが勤めている病院の前にいた。
「出しぬけに、仕事場に行くと、迷惑か・・・」
と戸惑ってはみるが・・・
「みゆきさんの顔を見ると、気持ちが落ち着くかも・・」
と思い直し、中庭に相棒を停め、病院に入って行った。
「え~っと・・・何処だっけ・・・タケシの病室が
整形外科だったから、2階か・・・」
ナースステイションの前で立ち止まり、中を覗くが
みゆきの姿は見つからない・・・
「あれ・・・違ったかな・・・?」
迷ったような由紀夫の姿を見た看護師が・・・
「誰か、お探しですか?」と声をかけてくれた。
「あ・・・はい・・・え~っと・・・」
みゆきの名字が出て来ない・・・
「あの・・・みゆきっていう名前の看護師さんは・・・」
「みゆきさんって・・・田中みゆきさんの事ですか?」
「みゆきさんって・・・田中って言うんだ・・・俺と
同じ名字じゃないか・・・」」
と思いつつ・・・
「あ・・・はい・・・」
「田中さんなら、少し前に、お辞めになりましたよ」
「え・・・嘘でしょ?」
「たしか・・・2週間くらい前でしたかね・・」
張りつめた心の糸が切れそうに、なりながら・・・
「あ・・ありがとう・・・ございます・・・」
由紀夫は、言葉にならないような声でお礼を言い
相棒の待つ、中庭へ戻った。
「そうだ・・・電話だ・・・電話をかけてみよう・・・」
ツルルルル・・・ツルルルル・・・・
「この間といっしょだ・・・何でなんだ!!」
やはり、電話に出る気配はない。
何とか連絡を付けたい由紀夫は、みゆきの家へ
行ってみようと思うが、よく考えてみると、
みゆきが由紀夫のアパートへ来る事は、あっても
由紀夫がみゆきの家へ行く事はなかった。
「俺・・・こんなに身近にいたのに、みゆきさんの
事を何も知らない・・・今まで、何をやってたんだ・・」
今の状況では、何かを起す術もなかった。
「これじゃあ・・・美咲の時と同じだ・・・」
探す宛てもないの由紀夫は、二人で行った
パイレーツという名前のレストランに行ってみた。
入口のガラス越しに、あの窓際の席を見ると
ワンピース姿の女性が座っているのが見えた。
「みゆきさん・・・」と由紀夫は言いかけた時
「お待たせ!」と男性が、その女性に駆け寄って行った
「へ・・・?」よく見ると、みゆきが着ていた柄とは
全然違うワンピースで、別人だった。
「あ・・・違うか・・・」
相棒の車重がやけに重かった。
由紀夫は、諦め切れず、表参道や映画館にも
行ってみた。
「ダメだ・・・何処にもいない・・・でも・・
何で、俺に黙っていなくなってしまったんだ・・・」
またしても、由紀夫の生活は、みゆきと出会う
前の希望もない、静かな暮らしに戻ろうと
していた。
しかし、みゆきの事は片時として忘れた事はない、
いや・・・忘れられなかった。
仕事の時は、書類の山に追われるので、忘れて
しまうが、帰ろうとする由紀夫のポケットの
スマホが、震えているんじゃないかとスマホを
着信を確認するのが日課になっていた、また
ロビーへ続く階段を下りると、玄関の前の
街路樹の下に、みゆきが待っているような気が
してならなかった。
駅へ向かってトボトボと歩く、似たような声を
聞くと、つい振り返ってしまう。
駅を降り、薄暗い静まり返った通りをアパートへ
向う。
ふと、アパートの自分の部屋への方を見上げる・・・
部屋の灯りは点いていない。
「どうして・・・どうして・・・いなくなっちまったんだ
どうして・・・電話に出ないんだ・・」
由紀夫の頭の中は混乱し、今までの事を整理しようと
するが・・・考えれば、考える程・・・深い穴の中に
落ちて行くような気がした。
「みゆきと美咲は、別人なのか・・顔・・体系・・
声・・・どれを取っても瓜二つじゃないか・・・
もしかしたら・・・双子・・・?
いや・・・美咲から、そんな話は聞いた事がない・・」
由紀夫は疲れ果て、みゆきの影を追うのに限界を
感じていた。
最終話へつづく