重低音の4気筒のエンジンを切ると、テラスの奥から
「いや~!いらっしゃい~!」と笑顔の女性が出て来た。
「由紀夫さんでしょ!先日は、うちのバカ亭主が
ホント!お世話になりました。こんな形でお礼で
失礼なんですけど・・・どうぞ、どうぞ・・・
お入り下さい!もう、始まってますから・・・」
「あ・・・はい・・・」
人の集まる所の嫌いな由紀夫は、タケシの奥さんに
言われるままに、店の奥へと入った。
「由紀夫君!今日は、ゴメンな・・無理、言って
しまって!でも、命の恩人が居ないと始まらないからな!
みんな~!紹介しとくよ!彼が、俺の命の恩人の由紀夫
君だ!俺は・・・彼が居なかったら、今頃・・・」
何故か、タケシは、涙目で、由紀夫を紹介した。
「出た!出た!マスター!お前、俺ん時も、泣きながら
紹介したよな~!」
招待された常連客達は、そのお客の言葉に、笑い始めた。
「由紀夫さん、だっけ・・・マスターは、感激屋でさ!
すぐに涙を流すんだよ!ハハハハ・・・・」
命の恩人でもない、由紀夫は、みんなの視線を浴びながら
顔を赤らめながら、うつむくしか、なかった。
「まあまあ・・・座ってビールでも・・・お~っと・・
バイクだったな・・・じゃあ・・・コーヒーでも
入れてもらいなよ!」
中央のテーブルを囲むように、10人くらいのお客さん
らしき人達は、座っており、高そうな、白、赤ワイン・・・
サンドイッチ、オードブルが所狭しと並んでいる。
並べ切れない料理は、カウンターにまで、並んでいた。
「今日は、酒は飲めないだろうけど、色々あるから
腹一杯、食べてってよ!」とタケシが飲めない
由紀夫に、気を使って言う・・・
そのタケシの横顔越しに・・・・
「あ・・・彼女だ・・・・」
彼女は、まともに目を合わせられない由紀夫に、
懐かしい笑顔で、頭を下げ、会釈をする。
またしても、忘れ去っていたはずの疑問が頭をよぎる。
「何て、似てるんだ・・・見れば見る程、似てる・・・」
すると、タケシが・・・
「由紀夫君!由紀夫君!!」
「へ?」
「何を見とれてるんだ?あの看護師さんか?」
「いや・・・・」
「彼女、綺麗だよな~!たしか・・・俺達と
いっしょくらいの年だったと思うんだけど・・・
若く見えるような~!
あれ~!もしかして・・・由紀夫君・・・
一目惚れか~?」
「バ~カ~!何、言ってんだ!ただ・・・」
「ただ・・・?」
「ただ・・・知りあいによく似てたから・・・」
「そうか・・・5年くらい前から、あの病院で
働いているんだそうだ・・・その前は分からないけど・・・」
「いや、別に・・・知りあいに似ていただけだから・・・」
「俺が中を取り持とうか?」
「いや、良いよ~!何でもないんだから・・・」
という間もなく、デリカシーが若干、欠けてる
タケシは・・・・
「看護師さん!由紀夫君が話がしたいって!」
「おい!おい!」
テーブルの反対側で、看護師の彼女が・・・
「あら~!あたしもバイクの、お話を聞きたかった所
なんですよ。」
とワイングラスを片手に、由紀夫の隣に座った。
「先日、病院で、お会いした時に、中庭に停めてあるのを
見て、カッコイイなあ・・・と思ってた所なんです」
その言葉を聞いた由紀夫は
「やっぱり・・・美咲じゃないんだ・・・美咲は
バイクに無関心だったもんな・・・」
と、顔には、出さず、心の中でつぶやいた。
「あの・・・」
「へ?」
「こんな事を言ったら、厚かましい・・と
思われるかもしれないけど・・・一度、バイクの
後ろに乗せてくれませんか・・・?」
「え?そ・・・それは、構いませんけど・・・」
「すいません・・・勝手な事を言ってしまって・・・
自分で、免許を取ってバイクに乗れば良いんだろうけど
昔から運動音痴で、自信がないんです。でも!!
バイクって、すごく気持ち良さそうじゃないですか~?」
「そんな事で、良ければ、いつでも良いですよ!
でも・・・ご主人・・・何かは、大丈夫なんですかね・・?」
「いやだ~!私、独身ですよ~!そんなに
老けて見えました~?」
「いやいや、そんな意味じゃなくて・・・・」
「あら~?君達・・・中々、良い雰囲気で
盛り上がってるじゃないの~?」
とタケシが突然、割り込んで来た。
「バカ!!茶化すなよ!!」
顔を上げると、全員が、ニコニコと笑ながら
由紀夫と看護師の彼女の方を見ていた。
「由紀夫さん!中々、お似合いだよ~!」と
常連客のガンさんも、冗談まじりに、ヤジを
飛ばす。
由紀夫は、少年のように顔を赤らめ・・・
「もう、勘弁してくれよ~!」と店の外へ
飛び出してしまった。
少し冷たい、潮風が、由紀夫の頬を撫でる。
ビーチの向こうで、ウミネコの声が微かに
聞こえる。
「何か・・・お酒のツマミにされちゃったね!」
という声に振り返ると、看護師の彼女がニコニコと
笑ながら立っていた。
「あの・・・俺・・・まだ、名前を聞いていない
ですけど・・・・」
「あ・・・そうですね・・・私・・・・」
由紀夫は、その言葉に息をのむ・・・
「私、みゆき・・・っていいます。」
「あ・・・そう・・・み・ゆ・きさん・・・」
「何か・・・可笑しいですか?」
「いえ・・・知り合いの人の名前に似てた
もんだから・・・・」
「みゆき、なんて何処にでもある名前だから・・
で、何処に連れて行ってくれるんですか?」
「いや・・・何処でも良いですよ、みゆきさんの
行きたい所で・・・」
「はい、分かりました!今日は、マスターに、お呼ばれ
だから、また今度・・・という事で・・それまでに
考えときますね!行きたい所!!」
二人は、携帯番号の交換をし、店の中へ戻った。
第6話へつづく