記憶の旅 第5話 | 二輪屋イサミ 局長のブログ

 重低音の4気筒のエンジンを切ると、テラスの奥から
 「いや~!いらっしゃい~!」と笑顔の女性が出て来た。
 
 「由紀夫さんでしょ!先日は、うちのバカ亭主が
 ホント!お世話になりました。こんな形でお礼で
 失礼なんですけど・・・どうぞ、どうぞ・・・
 お入り下さい!もう、始まってますから・・・」
 「あ・・・はい・・・」
 人の集まる所の嫌いな由紀夫は、タケシの奥さんに
 言われるままに、店の奥へと入った。
 
 「由紀夫君!今日は、ゴメンな・・無理、言って
 しまって!でも、命の恩人が居ないと始まらないからな!
 みんな~!紹介しとくよ!彼が、俺の命の恩人の由紀夫
 君だ!俺は・・・彼が居なかったら、今頃・・・」
 何故か、タケシは、涙目で、由紀夫を紹介した。
 
 「出た!出た!マスター!お前、俺ん時も、泣きながら
 紹介したよな~!」
 招待された常連客達は、そのお客の言葉に、笑い始めた。
 「由紀夫さん、だっけ・・・マスターは、感激屋でさ!
 すぐに涙を流すんだよ!ハハハハ・・・・」
 命の恩人でもない、由紀夫は、みんなの視線を浴びながら
 顔を赤らめながら、うつむくしか、なかった。
 
 「まあまあ・・・座ってビールでも・・・お~っと・・
 バイクだったな・・・じゃあ・・・コーヒーでも
 入れてもらいなよ!」
 中央のテーブルを囲むように、10人くらいのお客さん
 らしき人達は、座っており、高そうな、白、赤ワイン・・・
 サンドイッチ、オードブルが所狭しと並んでいる。
 並べ切れない料理は、カウンターにまで、並んでいた。
 
 「今日は、酒は飲めないだろうけど、色々あるから
 腹一杯、食べてってよ!」とタケシが飲めない
 由紀夫に、気を使って言う・・・
 そのタケシの横顔越しに・・・・
 「あ・・・彼女だ・・・・」
 彼女は、まともに目を合わせられない由紀夫に、
 懐かしい笑顔で、頭を下げ、会釈をする。
 またしても、忘れ去っていたはずの疑問が頭をよぎる。
 
 「何て、似てるんだ・・・見れば見る程、似てる・・・」
 すると、タケシが・・・
 「由紀夫君!由紀夫君!!」
 「へ?」
 「何を見とれてるんだ?あの看護師さんか?」
 「いや・・・・」
 「彼女、綺麗だよな~!たしか・・・俺達と
 いっしょくらいの年だったと思うんだけど・・・
 若く見えるような~!
 あれ~!もしかして・・・由紀夫君・・・
 一目惚れか~?」
 「バ~カ~!何、言ってんだ!ただ・・・」
 「ただ・・・?」
 「ただ・・・知りあいによく似てたから・・・」
 「そうか・・・5年くらい前から、あの病院で
 働いているんだそうだ・・・その前は分からないけど・・・」
 「いや、別に・・・知りあいに似ていただけだから・・・」
 「俺が中を取り持とうか?」
 「いや、良いよ~!何でもないんだから・・・」
 という間もなく、デリカシーが若干、欠けてる
 タケシは・・・・
 「看護師さん!由紀夫君が話がしたいって!」
 「おい!おい!」
 テーブルの反対側で、看護師の彼女が・・・
 「あら~!あたしもバイクの、お話を聞きたかった所
 なんですよ。」
 とワイングラスを片手に、由紀夫の隣に座った。
 
 「先日、病院で、お会いした時に、中庭に停めてあるのを
 見て、カッコイイなあ・・・と思ってた所なんです」
 その言葉を聞いた由紀夫は
 「やっぱり・・・美咲じゃないんだ・・・美咲は
 バイクに無関心だったもんな・・・」
 と、顔には、出さず、心の中でつぶやいた。
 
 「あの・・・」
 「へ?」
 「こんな事を言ったら、厚かましい・・と
 思われるかもしれないけど・・・一度、バイクの
 後ろに乗せてくれませんか・・・?」
 「え?そ・・・それは、構いませんけど・・・」
 「すいません・・・勝手な事を言ってしまって・・・
 自分で、免許を取ってバイクに乗れば良いんだろうけど
 昔から運動音痴で、自信がないんです。でも!!
 バイクって、すごく気持ち良さそうじゃないですか~?」
 「そんな事で、良ければ、いつでも良いですよ!
 でも・・・ご主人・・・何かは、大丈夫なんですかね・・?」
 「いやだ~!私、独身ですよ~!そんなに
 老けて見えました~?」
 「いやいや、そんな意味じゃなくて・・・・」
 「あら~?君達・・・中々、良い雰囲気で
 盛り上がってるじゃないの~?」
 とタケシが突然、割り込んで来た。
 
 「バカ!!茶化すなよ!!」
 顔を上げると、全員が、ニコニコと笑ながら
 由紀夫と看護師の彼女の方を見ていた。
 「由紀夫さん!中々、お似合いだよ~!」と
  常連客のガンさんも、冗談まじりに、ヤジを
 飛ばす。
 
 由紀夫は、少年のように顔を赤らめ・・・
 「もう、勘弁してくれよ~!」と店の外へ
 飛び出してしまった。
 
 少し冷たい、潮風が、由紀夫の頬を撫でる。
 ビーチの向こうで、ウミネコの声が微かに
 聞こえる。
 
 「何か・・・お酒のツマミにされちゃったね!」
 という声に振り返ると、看護師の彼女がニコニコと
 笑ながら立っていた。
 「あの・・・俺・・・まだ、名前を聞いていない
 ですけど・・・・」
 「あ・・・そうですね・・・私・・・・」
 由紀夫は、その言葉に息をのむ・・・
 「私、みゆき・・・っていいます。」
 「あ・・・そう・・・み・ゆ・きさん・・・」
 「何か・・・可笑しいですか?」
 「いえ・・・知り合いの人の名前に似てた
 もんだから・・・・」
 「みゆき、なんて何処にでもある名前だから・・
  で、何処に連れて行ってくれるんですか?」
 「いや・・・何処でも良いですよ、みゆきさんの
 行きたい所で・・・」
 「はい、分かりました!今日は、マスターに、お呼ばれ
 だから、また今度・・・という事で・・それまでに
 考えときますね!行きたい所!!」
 二人は、携帯番号の交換をし、店の中へ戻った。
 
               第6話へつづく