湾岸道路から松林を抜け、小高い丘の向こうに行った所に
病院は、あった。
「もうこれで、貴重な休日は、終わりか・・・」
とため息をつく、傍らでタケシが
「すまない・・・ホント・・・すまない・・・」
と、痛みを堪えながら、謝って来る。
「良いよ・・良いよ・・・事情聴取も無事に終わった事
だし・・・お前の家族にも連絡は、ついた事だし・・
これも・・旅のひとつの出来事だと思えば・・・な!」
「悪いね・・・この恩返しは、必ず・・・」
「そんな事より・・・嫁さんに!怒られるぞ~!」
「そうなんだ・・・それ!それよ、問題は!」
「もう、来る頃だろう?嫁さんとのラブラブの
時間を邪魔すると悪いから、俺は失礼するよ!」
「いや・・・居てくれた方が・・・」
由紀夫は、笑ながら、病室を後にした。
「あ・・・もう3時か・・・ボチボチ帰らないとな・・・
明日は、仕事だし・・・」
と病院の廊下を玄関の方に歩いていると、
こちらに歩いて来る看護師の顔を見て、由紀夫は
固まった。
「まさか・・・・」
その看護師の顔は、突然、行方を眩ました、元、嫁さんの
美咲と、うりふたつ、であった。
しかし、すれ違う瞬間にマジマジと除き込んだが、その
看護師は、軽く会釈をして、通り過ぎていった。
由紀夫は、動揺を押さえられない・・・・
かと言って、美咲だよね・・・とも聞けない・・・
本当に美咲なら、俺の顔を見て、何か言うはずだ・・・
とも、思った。
他人の空似なのか・・・・
それとも、分かっていて、知らんぷりを
決め込んでいるのか・・・
すれ違ってから、まだ1分も経っていないのだが
由紀夫は、深い迷い路に、落ち込んだような気がした。
どれくらいたったのだろう・・・・
窓から差し込んだ夕日の眩しさで、ふと・・・
我に帰った。
「とにかく、帰ろう・・・ここに居ると、
頭がおかしくなりそうだ・・・」
相棒のエンジンをかけ、また、湾岸道路を
戻って行く。
もう、そこには、朝のような清々しい気持ち良さは、
何処にもない・・・
途中から自分が、どの道を帰ったのかも
よく分からないが、気がつくと、カーテン越しに
見えるネオンサインをボーっと見ながら
ビールをあおっていた。
それからというもの、何をしていても、あの・・・
瞬間が頭から離れない。
仕事をしていても、気がつくと、窓から見える
町並をボーっと、見つめ・・・時間が止まっていた。
「田中!たなか~!」
「あ・・・はい・・・」
「お前!何、やってんだ~?その書類、今日中に
仕上げなくちゃならないだろ?頼むから、給料分
くらいは、仕事、しろよ~!」
「す・・・すいません・・・急ぎます・・・」
追い立てられ、パソコンのキーボードを叩くが
フラッシュバックのように、あの時の事が
が蘇り、誤字脱字だらけで
思うように、書類が進まない由紀夫であった。
散々、上司に愚痴を言われ、へこみながら
いつもの居酒屋で、少しばかりの摘みを取り
酒を呑み、ため息をつく・・・
頭に浮かぶのは、あの・・・瞬間の看護師の顔・・・
「あれは・・・やっぱり・・・美咲じゃないのかも
知れない・・・」
「いや・・・気づいていて、知らないふりをしていた
のかも知れない・・・」
何度も頭の中で、堂々巡りをするが、結論が出る
はずもない。
「もう一度だけ・・・あの病院に、行ってみるか・・」
10年のブランクの事を確かめるのは、確かに
怖かったが、刺激も何もない生活に、戻れる
気もしなかった。
第4話へつづく