
ゴールは陽炎の向こうに 第3話
蒸し暑い風は、いつの間にか、雨と共に去り、とうとう
セミの鳴き声と共に乾いた熱い風が吹き始めた。
「涼太!元気か?」
「お!ヒロ、準備は、どうだ?俺達は、準備万端だぞ!」
「そうか・・・レース1週間前だ、そろそろ来てくれ」
「わ・・分かった!いよいよだな!じゃあヒデと二人で
明日、そちらへ向かうわ!」
「涼太!頼むぞ!で、足は?」
「足?足は・・・お前も知ってるカワサキの750ccしか
ないだろ?」
「あれに二人乗りしてくるのかよ?」
「仕方ね~よな・・・ヒデは、族のくせに、免許もバイクも
持ってね~しな・・・・ちょっとキツイけど、何とかなるだろ?」
「ははは・・・世話が焼けるな・・分かった、じゃ!
気をつけて来いよ!」
「早くオレ達に合いて~だろうけど、じっと待っとけよ!」
ヒロは照れくさそうに
「何、言ってんだ・・・とにかく、気をつけてな・・・ガチャ・・」
電話を切った、涼太は、怒ったようなヒロの顔を思い
浮かべて、一人、ニヤニヤと笑った。
ヒロからの電話の2日後、涼太とヒデは、早朝の爽やかな
海風の中を走るフェリーの中にいた。
「涼太さん!もうすぐ着きますよ」
「え・・・?もうそんな時間なのか?」
「ほらほら、荷造りしないと・・・・」
涼太とヒデは神戸行きのフェリーで、夜明けを
迎えていた。
「フ~!夏の朝の空気は気持ち良いですね!」
「お前・・・高校生のくせに、あんなに呑みやがって・・・
なんで、そんなに清々しい朝が迎えられるんだ?」
涼太は、ツーリストの寝床で、頭をかきながら
身支度を整えていた。
「用意できました?バイクの所へ行きますよ」
「分かってるよ!なんで朝からテンションが高いんだ・・・?」
涼太はヒデに急かせられながら、おぼつかない足取りで
階段を降りて行った。
「さあ!京都まで一気に行きますか~!」
「先に言うな!運転するのはオレだろ?お前は
後ろに乗ってるだけだろ・・・」
「まあまあ・・・旅先で小さい事を言わない!」
「大体な~!お前の荷物が大き過ぎてな・・・・」
「まあまあ・・・」
「先に乗るなよ!オレの乗る場所が、ね~じゃね~か!」
二人のコントのような会話は、さて置いて関西の冒険は
始まったのである。
「腹、減ったな・・・・」
「涼太さんが空呑みするからでしょう?」
「バ~カ!お前が、一人でツマミを食ってしまうからだろ?
オレが最後に食べようと残しておいた、ビーフジャーキーも
食ってしまいやがって・・・・」
「もう、ここまで来たら、京都に着いてから食べた方が良いですよ
ヒロさんも待ってるだろうし」
「そうだな・・ここからだと、後、30分くらいで着くだろう」
どこに行っても、この調子である。
さて、いよいよ、2人は、京都の特徴である、
碁盤の目のような街に入っていった。
「ヒロさんの働いている所、車の修理工場でしたよね」
「そうそう・・・大通りから3本目を左って言ってたぞ!」
ヒデ!ちゃんと見つけろよ!オレは前を見とかなきゃ
ならね~から・・・」
「あった!あった!あれですよ!あれ!」
「え?どれどれ?」
「涼太さん!前を見とかなくちゃ、あぶないでしょ!」
「お前が、見ろっていったんだろ?」
4機筒の重低音に気づいたのか、ピットの奥からヒロが
飛び出してきた。
「やあ!君たち、久しぶりだね~!」
「お!久しぶり~!しかし・・この街の蒸し暑さは
ハンパじゃね~な!」
「そうだな、もう、ここに住んで何年か経つけど、これだけは
慣れね~な・・ ヒデも元気そうじゃね~か!」
「はい!一応ですね」
「お前、この間、ひと悶着、あったってな」
「へへ・・・ケジメですよ!ケジメ!涼太さんにも
お世話になったし・・・」
涼太は、恥ずかしそうに
「う・・・ん・・まあな・・・それより、マシンは、何処にあるんだ?」
「お!裏に置いてあるよ」
3人は、ピットの建物の裏へ廻った。
「うへ~!なんじゃ!こりゃ!」
「ヒロさん、派手に、やりましたね~!」
「驚いたろ?ハンドルや足回りは、修復したんだが、
カウルや外装が、まだなんだ・・・」
「もしかして・・・オレ達が、やんのかよ?」
「そういう事!」
「カラーリングは、決めてある、ペンキも用意してある
一服したら、初めてくれ」
涼太とヒデは、工場の前の喫茶店で、腹ごしらえをして
無風の蒸し暑さの中で、汗をかきながら、塗装を
始めた。
「ヒデ!お前、何やってんだ!ちゃんとペーパーを
かけろよ!塗料が乗らね~だろ?」
「いや・・・僕は、どちらかというと、デスクワークの方が
得意なので・・・」
「うそつけ!デスクワークが得意な暴走族は
聞いた事がね~ぞ!」
「涼太さんこそ、ちゃんと塗って下さいよ!汚いと
鈴鹿で、指さして笑われますよ!」
「口数の減らね~ヤツ・・・ある意味、特殊技能かもな・・・」
「何か、言いました?」
「いや・・・それがおわったら、クリヤの塗料が足りね~から
買いに行こうや!ヒロが近くに、店があるって言ってたからよ」
「京都の街も見学したいし、行きましょう!行きましょう!」
「ヒロ!ちょっとペンキ、買ってくるわ」
「おう!分かった!迷うなよ!」
「バ~カ!何、言ってんだ!子供じゃあるまいし・・・・」
涼太とヒデは、いつものようにカワサキに二人乗りして
ペンキ屋へ向かった。
「え~っと・・・4本目の交差点を左に曲がって・・・その次を
右に曲がったとこ・・・・あ~!あった!あった!どうだ
すげ~だろ?まるで、地元の人間のようだろ?」
「ふん・・・このくらいは誰でも、分かるでしょ・・・」
「何か、言ったか?」
「いや!何でも!ありません!」
二人は店内に入り
「え~っと・・・クリアーの塗料、あります?」
「はい、ございますよ、この商品が、お薦めですよ
最近、よく売れてます」
「それで、良いです、下さい」
二人は、3本ほど、買って店を出た。
「ヒデ、あんまり時間もない、早いとこ、戻って
仕上げてしまおうぜ」
「はいな!」
「だから、オレよっか、先に乗るなって・・・」
二人を乗せたカワサキは、4気筒の重低音とともに
走りだした。
「え~っと・・まず・・左に曲がるんだったな・・・」
「涼太さん・・大丈夫?」
「何がだよ?次の信号を右に曲がって・・・お・・ここだ、
ここだ・・・ここを右に曲がれば・・・修理工場が・・・あれ・・?」
「もう一つ、向こうじゃなかったんですか?」
「あれ?そうだっけ?じゃあ、この道を南に行けば、良いだろ?
・・・・あれ?」
「もしかして・・・迷っちゃった・・?」
「バ~カ・・何、言ってんだ・・・もう一つ、向こうだったわ
・・・・あれ?」
「涼太さん・・あれ、見て・・・あれ、二条城じゃない・・・?」
「え?二条城は、工場とは、全然、場所が違うだろ?
京都は、似たような建物が多いからな・・・でも・・・
ニジョウジョウ・・って書いてあるな・・・という事は・・・
西に行けば、大丈夫だよ!」
「え~?ホントに大丈夫~?」
「オレが大丈夫って言ってんだから、大丈夫に
決まってんだろ!ドロ船に乗ったつもりで、任せとけ!」
「え~!それを言うなら、大船じゃないの?」
「え?分かってた?」
二人は、戻るどころか、さらに迷い
「何だ、この橋は?綺麗な所だね~?」
「オレ・・・ここ、テレビで見た事がある!多分、嵐山ですよ」
「え~?オレ、確か・・西に走ったよな・・・」
「ヒロさんに電話かけましょうよ・・・」
「バカ言え、あいつは仕事中だろ!迷惑かけられっかよ・・
それに、笑われるに決まってる」
「何で、こんな時に強情を張るかな~!」
「よし!こうしよう!靴を投げて、向いた方に行くんだ!」
「え~!そんなの、ありかよ~!」
「いいから・・いいから・・・ほらっ!お!こっちだ!」
「時々、この人の性格が分からなくなるんだよな・・・」
「ヒデ!行くぞ!」
「はいな・・・・・・・」
「だから!先に乗るなって!」
ヒデの不安をよそに、涼太は、靴の向いた方に何も
迷う事なく走って行く。
「あった!あった!」
「うそ、でしょ~?」
「これが、動物的、感ってヤツよ!人間、最終的にはよ!
感よ!感!」
「はいはい・・・たまたま、当てずっぽが当たっただけじゃね~か・・・」
あまりにも帰りが遅い二人を心配してヒロは工場の前で
待っていた。
「お前達、何処へ行ってたんだ?」
「ゴメン、ゴメン・・・こいつがさ、京都見物したいって
言うからさ、ちょいと寄り道してたんだ」
「え~?オレかよ・・・?」
「だから・・迷うなって言っただろ?」
「お前、何言ってんの・・・まるで・・・オレが迷子になった
みたいじゃね~の・・・?」
「まあ、いい、後は、クリアを塗るだけだろ?早く、やっちゃってくれ」
「了解!まかせとけ!ヒデ!やるぞ!」
「はいな!」
「ヒデ!お前は、フロントカウルを、やってくれ!オレは残ってる
クリアでテールカウルをするから」
「へいへ~い!」
しばらく二人は無言で作業をしていたが
「あれ~?」
「どうした?」
「涼太さん・・・このクリア・・・何か、おかしいですよ?」
「クリアに、おかしいもクソもね~だろ~?」
「いや・・・何か・・・塗った後がテカテカ光るんですよね・・・」
「そんなこたぁ~ねだろ・・・?あれ~!これ・・ラメが
入ってるじゃね~かよ~!」
「オレは、カッコイイと思いますよ!」
「そらあ、そうだろ!これ、暴走族が使う、ラメ入りの
クリアじゃあ~ないのか~!・・・ヒロ・・・怒るだろうな・・・
仕方ない! ここだけ、ラメじゃ、おかしいから、
全部、塗っちまおうぜ!」
「え~?大丈夫~?ヒロさん、びっくりするんじゃあないんですか?」
「今からじゃあ、塗料屋も閉まってるだろ!レースは
見かけじゃない!走りよ!走り!大丈夫だ!」
陽も沈みかけの頃、仕事を終えたヒロが、やってきた。
「お~!ヒロ!良い所に来た、今、出来上がったとこだわ」
ヒロが絶叫したのは言うまでもない。
「なん!じゃ!こりゃあ~!」
つづく