「バカ管」 と 「オッパイチューブ」 の歴史的邂逅 (かいこう)。 | げたにれの “日日是言語学”

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やたらにコトバにコーデーする、げたのにれのや、ごまめのつぶやきです。


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〓“どっきん” ドキドキ ですがな。


   ユニクロの “ブラトップ” のCM


〓正直申しましてですな、アッシは、吹石一恵 (ふきいし かずえ) さんのファンなんでげすね。コレには、また、前段がありまして、4月に発売された an・an のインタビュー記事で、背中からのスッポンポン写真を公開しておられるのどす。ご本人は、「偶然、そういう仕事が続いただけ」 と仰 (おお) せなんですが。


〓ユニクロのCMでは、もうひとつ驚きましてん。


   “チューブトップ” は “穿く” (はく) ものなん?


ってことですよ。


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〓昔、「タモリ倶楽部」 で、ナニがテーマの回だったか、すっかり失念しておるんですが、山田五郎、“えのきどいちろう” といった、文化人ばかりが出演している日がありまして、なぜか、話題が、


   トイレで “大” をしたあと、後ろから拭くか? 前から拭くか?


ということになりました。女子のバヤイは、学校の保健体育で 「後ろから拭くように」 と指導されるんだそうですね。どうなんでがしょう。しかし、男子のバヤイは、そのような授業はござんせんでした。
〓タモリさんが、「後ろから拭くヒト」 と尋ねると、全員が挙手 パー。いや、


   えのきどいちろうさんだけ手を挙げていない ショック!


〓えのきどさん、焦りまくる。誰もが知っている当たり前の真実を知らなかった男がジタバタしている。タモリさんが追い打ちをかけるように、


   「だって拭くとき、“前のモノ” がジャマになるでしょう。
    ああそうか、えのきどさんの場合はジャマにならないんだ」


〓男のコケンまでコケにされて、えのきどいちろうは、「タマシイの打ちひしがれたえのきどいちろう」 となりはてたのでした。しかし、テレビの前のアッシも、


   打ちひしがれた男 ガーン


となっておりましたがな…… そ、そやったんか……



〓ねえねえ、チューブトップってえのは、足から穿くモンなん?





  【 アメリカの 「ブーブ・チューブ」 】


〓米俗語で 「テレビ」 television (set) のことを、


   boob tube [ ' ブーブ ˌ トゥーブ (ティ ' ユーブ) ] 「バカ管」


と言います。
〓日本語で、テレビを 「ブラウン管」 と言うことがありますね。もうすぐ死語になるかもしれませんが、「昭和のブラウン管を飾った芸能人」 のような言い方は残るでしょうか。
〓この 「ブラウン管」 という名前は、「考案者」 であるドイツの物理学者 カルル・フェルディナント・ブラウン Karl Ferdinand Braun の名前にちなむものです。


〓日本では 「ブラウン管」 ですが、ドイツ語圏では、


   die Braunsche Röhre [ ディー ブ ' ラウヌシェ ' レーレ ] 「ブラウンの管」


と呼びます。ドイツ語の姓 Braun は、英語の Brown と同源で、髪の毛、目、肌などの色に注目したアダ名です。
〓しかし、英語圏で “Braun tube” と言っても、まず理解してもらえないでしょう。ちなみに、Google UK 、英国限定で “Braun tube” を検索すると 338件です。ネットで 338件は、「誰も知らない」 に等しい数です。


〓英語圏では、 “Braun tube” という言い方が普及しなかったんですね。代わりに、


   cathode ray tube [ ' キャそウド レイ , トゥーブ ] 「陰極線管」、「CRT」


と言います。パソコンで言うところの “CRT” というのは、要は 「ブラウン管」 の同義語なんです。


〓かつて、評論家の大宅壮一 (おおや そういち) 氏は、テレビの普及が国民の思考力を低下させるとして、


   “一億総白痴化” (いちおく そう はくちか)


という論をブチ上げました。アメリカでも同じことを考えた人たちがいたらしいのです。「テレビばっかり見ているとバカになる」 というので、 cathode ray tube を下敷きにして 「テレビ」 を


   boob tube 「ブーブ・チューブ」 (バカ管)


と呼びました。1950年代のことです。






  【 イギリスの 「ブーブ・チューブ」 】


〓ラテン語に balbus [ ' バるブス ] 「どもりの」 という形容詞があります。これが、時代をくだって、スペイン語で bobo [ ' ボーボ ] という名詞になりました。



   balbus [ ' バるブス ] 「どもりの」 ラテン語。主格
    ↓
   balbum [ ' バるブ(ム) ] ラテン語。対格
    ↓
   *baubo [ ' バウボ ] 原スペイン語
    ↓
   bobo [ ' ボーボ ] スペイン語 「まぬけ、うすらバカ」



〓このスペイン語が16世紀末に英語に入りました。


    ↓
   booby [ ' ブービィ ] 英語 (16世紀末~) 「まぬけ、カツオドリ、競技のビリ」
    ↓
   boob [ ' ブーブ ] 英語 (1909~) 「バカ」



〓この boob が、米俗語 boob tube 「バカ管」 の boob 「バカ」 です。「カツオドリ」 は、人間が近づいても逃げずに、すぐにつかまえることができ、船乗りたちの格好の食糧になったので、「バカドリ」 と呼ばれていました。日本語では、まったく同じ理由で 「アホウドリ」 という命名がなされています。


〓ところで、この系統とは別に、17世紀、英語に、


   bub [ ' バブ ] 「オッパイ」


という単語が生まれました。おそらく、幼児語が起源と考えられています。「オッパイ、オッパイ、バブ、バブ」 ということです。イクラちゃん言うところの 「バブ~~」 みたいなもんでしょう。

〓1950年代から、この bub 「オッパイ」 と、 boob 「バカ」 の間に混交が起こり、


   【 boob 】   (1) バカ。  (2) オッパイ。 


という事態が訪れました。なんとなく、「巨乳バカ説」 もからんでいそうな気がします。実際、 boob という単語は、単なる breast の俗語ではないようです。「貧乳」 よりも 「巨乳」 を指すことが多いようですね。 boob って音感は、なんか大きそうですもんね。


〓1970年代、ウーマンリブ Women's Liberation Movement の流れの中で、 boob 「オッパイ」 は、女性自身にも好んで使われる単語になりました。ブラ・バーニング bra-burning といって、ブラジャーが 「焚ブラ」 メラメラ に遭ったころです。
〓女性のファッションが、「ヴィクトリア朝」 の後遺症を残すカチカチしたものから、ヒッピー的な開放感のあるものに変わる時代でもあります。


〓そういう時代を迎えて、英国では、


   boob tube [ ' ブーブ ティ ˌ ユーブ ] 「ブーブ・チューブ」


というファッションが誕生しました。簡単に言うと、


   「バストを覆う、ハチマキ型のトップ」 もしくは、
   「肩ひものないタンクトップ」


のようなものです。ちっとも絵が浮かばない男性は、下の2枚の写真をどうぞ。長短2バージョンの boob tube です。



   boob-tube1    boob-tube2



〓同じ物を、米語では tube top、日本語でも 「チューブトップ」 と言っています。要するに、肩ひもがないので、脱ぐと 「ただの筒ッポ」 になってしまう。それで、


   boob 「オッパイの」  tube 「筒ッポ」 → 「ブーブ・チューブ」


になるんですね。





〓どういう巡り合わせなのか、英国と米国では、まったく違う思考回路を経由して、まったく同じ単語が、まったく違うものを意味するようになりました。密かにグフグフ笑いたくなるような、大西洋を挟んでの 「同音異義語」 なのです。