次いで、2023年入管法の改正の伴い出入国在留管理庁では、「職員の調査能力の向上のための取組」を行なうこととし、そして、そのために、「出身国情報の活用方法や調査の方法等に関する研修を行なうことなどにより、一層調査能力を高めていきます。」とされている。

 

 これには、もちろん異論の余地はない。

 ただ、これも情報収集の方法が法律で明文化されていないのと同じく、この調査能力の向上についても明記されていない点が非常に残念である。

 しかも、この点については明文化することはそれほど困難ではない。また、法律で明記しなくても、法律で一般的な調査能力の向上の義務を規定しておき、具体的内容は省令等の下位の法規範に委任することも十分に可能である。したがって、この点についても、明文化ができるにもかかわらず他の理由で明文化されていないとみることができる。

 その理由としては、調査能力向上のための研修等の内容を個別具体的に明文化し難い点もあると思う。

 また、穿った見方をすれば、現状の調査能力に問題があることを自認してしまうことになることから、明文化されなかったのかもしれない。

 

 いずれにせよ、調査能力に関しては、常に研鑽を行なうことが不可欠であり、そのことは実際の実務においては実践されていることと思われるので、その点を明文化しておくことは、より一層充実した能力の向上につながる。ちなみに、警察法では、警察大学校や警察学校において、新人や幹部への教育訓練等が明文化されている。

 これで十分か否かは別としても、明文化することは特別困難ではないということである。

 

 確かに、警察の場合とは職務が異なることから、同じには論じられないが、ただ、難民の問題もその重要性が勝るとも劣らずとは言えるのであるから、明文化されなかったのは、極めて残念なことである。

 

 したがって、調査の能力の取組についても、明文化されることが早急に望まれる。

 

 

 

 

 

 

 

職員の調査能力向上のための取組
 難民に当たるかどうかの調査を行う当庁職員(難民調査官)に対して、出身国情報の活用方法や調査の方法等に関する研修を行うことなどにより、一層調査能力を高めていきます

 さらに、2023年の入管法改正の事項ではないが、「難民の出身国情報を一層充実す売る取組」が出入国在留管理庁のホームページに記載されている。

 これは、本当に重要なことである。しかし、これが法律上に規定されずに、「取組」として規定されるにとどまったことについては本当に残念である。

 その理由は、難民の申請において、一番困難を伴うことは、それは、その難民認定を行い外国人が母国で「迫害」を受けているということの客観証拠を収集することが極めて困難であるということである。

 日本との交流が比較的盛んな外国の情報であれば、そのような「迫害」を受けている情報を入手することはそれほど困難なことではないが、しかし、そもそも難民となって日本に来る外国人は、おおよそ日本との政治的、経済的なつながりが希薄な国から逃れてきた外国人がほとんどである。このことは、これまでに書いてきた世界の難民等の状況においても明らかなとおり、難民の多くは、日本とは政治的にも経済的もあまり交流がない。

 したがって、そのような国からの難民等について難民の認定を行なうとしても、そもそもその母国の情報を入手することができないという大きな問題に直面する。種々の難民の認定の制度が良くなったとしても、この問題を解決しないことには、難民として認定して、受け入れることがそもそもできないのである。

 

 したがって、この点が今回の2023年の入管法改正において、明文化されていないのは非常に残念であると言わざるを得ない。その他の今回の改正の項目等においても、長所短所はあるが、それは別として、この点を明文化していないのは、本当に大きな問題であると思う。

 

 当然、日本国としても、そのことは理解していると思うが、また、そのよなことを明文化しても、実際にそのような情報を入手できるか否かは不明であり、その実効性を考えたときに躊躇せざるを得ない面は十分に理解できる。

 

 しかし、多くの日本に来る難民等の大きな問題はやはり母国において、「迫害」等をされていることの客観的な証拠を集めることができないところにある。このことは、これまでに若干紹介した裁判例を見ても、その難民の認定に際していかに多くの証拠を集めなければいけないかということからも明らかである。しかも、その集めなければいけない情報は、日本とは直接的には関係野ない外国の中で起きていることの情報であり、かつ、また、その母国においても、あまり表面化していない情報である。

 

 したがって、これらのことを総合的に考えれば明文化することは非常に困難を伴うことは理解できないではないが、ただ、明文化すること自体にはいくつかの方法があるのであり、そのようないくつかの方法を選択して、明文化しておくことは不可能ではい。

 

 情報収集の日本国内での手続き、基本事項、その重要性については明文化することは困難ではない。

 また、具体的な情報収集の方法を明文化しても、それを義務規定とせずに努力義務として規定することも可能である。

 このようなことが明文化されていない背景には、送還忌避問題があると思われる。それは、そのようなごく一部の難民認定制度を濫用する外国人が、仮に情報収集の方法が明文化された際には、そのごく一部の外国人がこの情報収集の手続きを乱発する可能性が否定できないと考えたからであると思われる。

 

 もちろん、送還忌避の問題は解決しなければいけない大きな問題であり、その問題の重要性は否定できないが、やはり、難民を受入れる方向で世界の先進国が動いている中において、日本はかなり消極的であることは否めない。

 

 情報収集の重要性は言うまでもないくらいに大切なものであり、その点を早期に明文化する等していかないと、真に保護されるべき難民が保護されない状態が継続してしまう。

 

 したがって、この点については、早急な対応が求められると考える。

 

 

 

 次いで、2023年の入管法改正の事項ではないが、「難民認定制度の運用を一層適切なものにします。」との取組みが示されている点について見ていきたい。

 

 まず、難民条約上の難民の定義には、「迫害」等の具体的意義が明らかではない文言が含まれているため、実務上の先例や裁判例を踏まえ、また、UNHCRの文書等も参考にしながら、このような定義の意義について具体的に説明するとされている。また、それらの判断に当たって考慮すべきポイントを整理する取組みを進めていくとのことである。

 

 これは、確かに必要なことであり、難民の定義のより一層の明確化は妥当だと思われる。

 この「迫害」という定義にしても、それのみではどのような被害を受けたことが迫害に該当するのかは、その受けた被害の態様、程度、内容、時期、場所、被害者の属性、相手方の行為内容、意図、目的等を個別具体的に見ていくしかないものである。したがって、その「迫害」という定義についてさらに明確化することは、難民の認定を行なう外国人からすれば好ましいものといえる。

 

 ただ、定義を具体化するといっても、それには限界があり、あまり細かな内容にしてしますと、逆に、その「迫害」という概念を狭めてしまう危険性があるという点である。

 

 したがって、この具体化の程度については、難民の申請を行なう外国人の立場に立って、かつ、実際的にも、難民として擁護する必要性のある外国人を保護するものでなければならない。

 ここは微妙なバランスを取りながら定義規定を作成するということになると思われる。

 

 ここに定義の規定の仕方の難しさがある。法律については、どの文言についても、

この問題は避けて通れないものである。

 

 しかし、この入管法の改正においては、世界における日本の役割、人道的保護の必要性等をしっかりと実現することができる内容の定義にしなければいけないと思う。

 

 また、出入国在留管理庁のホームページによると、この定義の判断に当たって考慮すべきポイントを整理する取組みを進めるとのことである。

 これも一般的、抽象的に言えば、好ましいことであるが、そのポイントを定めるための視点は、前述したとおり、難民保護のもともとの意義、人道的に保護するという観点、及び、世界における日本に期待されている役割等を踏まえたものとなっていなければならない。

 

 これらのことが反映されるものであれば、今回の入管法改正に伴う出入国在留管理庁の取組みは評価できるものとなるが、この問題については継続して見ていく必要があり、時代が変わればまたその内容も変わると思われるため、適宜の見直し等を常に行っていくことが重要であると思う。