先日、友達が参加した講演会のアーカイブが期間限定で見られるので関心があれば見てほしいと、動画が送られてきた。
千葉大学名誉教授の藤井英二郎先生の講演による日本の街路樹について。
友達によると、鳥の棲家が脅かされ私たちの暮らしにもつながる話だというので、期限が切れる前に見てみた。
樹冠被覆率とは
このアーカイブを見て、初めて「樹冠被覆率」という言葉を知った。また日本の街路樹の在り方を考えさせられるとても興味深い内容であった。
「樹冠被覆率」というのは、一定面積の地面に対して枝や葉が茂っている部分が占める割合をさし、単に街路に樹木が植えてあるだけではなく、樹冠が街路を覆うことによって、緑陰効果(緑の日傘)が得られ、夏の暑い時期、道路の路面温度は50℃にも達しているところ、樹木が路面を覆うことにより、20℃も路面の温度を下げる事ができるのだという。
木陰の効果により、そこまで温度が下がるとは…
ヒートアイランド現象を抑える対策として、欧米では樹冠被覆率を温暖化対策に取り入れ、街路樹の緑化対策が進めれている。
日本の街路樹は
一方、日本の街路樹や公園などの樹木の剪定は、樹冠被覆率の考えからかけ離れていると藤井先生は問題提起していた。
日本の街路樹の多くは、枝先を短く切る強剪定が主流。
このような状態では、木陰が作られる事はない。
夏場に木を短く切るなんて日本だけらしい。木陰ができないだけでなく、木にとっての負担も大きく、枝葉を切り落とすことで根の張りが弱くなり倒木リスクが高まる事や、強い日差しにより樹木の幹もダメージを受けるという事だった。
オリンピックで建て直された国立競技場の周りに移植された樹木たちは、現在枯れてきているそうで、移植は簡単ではなく、短く剪定される事で根が弱っての事だろうと藤井先生は見ているようだった。
樹木がそんなストレスを抱えている状態になっているとは
何も知らなかった自分に不甲斐なさを感じた。
戦前の日本の街路樹は、造園業を営む専門家が街路樹を管理していたので、写真で見る限りとても良い手入れがされていた、と話す藤井先生。
戦後、街路樹を管轄する部署が道路管理課のような道路を管理するところに変わっていった事で、樹木の専門家不在の、剪定マニュアルにより街路樹が管理されていて、街路樹の存在理由が理解されていないというのが今の現状だという…。
交差点に樹木がある事に対し、日本では視界が遮られ見通しが悪く危ないという認識だが、緑化を進めるドイツでは、見通しが悪いのでスピードが落ち安全運転につながると、樹木が受け入れられている話からも、国が重視する視点の違いによりこうも受け止め方が変わるのかと衝撃を受けた。
藤井先生の講演に似た内容がネット記事になっていたので、興味があれば是非こちらを↓
https://gendai.media/articles/-/98596?page=2
落ち葉対応から変わる樹木の種類
樹冠被覆率を考えた場合、樹木は高木の方が路面を覆う面積が大きくなる。
日本でも街路樹にケヤキやイチョウなどの木が植えれらているが、最近では、サルスベリやハナミズキといった低木の樹木が増えてきている。
理由は、葉が落ちない樹木が選ばれているから。
近所の木の落ち葉が周辺地域に風で舞い、それがクレームになったという話はよく耳にする話。
役所が、そういった落ち葉に対して考えられた樹木の選択だという事は理解できる。しかし樹冠被覆率の話で考えると低木では木陰の面積が狭くなってしまう…。
暑さを抑える温暖化対策から遠のいている日本の樹木の現状を知ると不安を感じた…
大事な事は
世界から遅れを取る、日本の街路樹をどうすればよいか?
藤井先生は、街路樹の剪定のやり方を変えるだけでも違うと話す。
建物側の枝は切るが、道路側の剪定はなるべく枝葉は残し、風通しをよく切っていく。
日本では仙台市がこのような手入れで剪定され、木陰のある通って気持ちのよい街路樹があり、他でも樹冠被覆率の事を理解して変わろうとしている地域もあるがなかなか進んでいない。もっと広げていくには、市民が声をあげる事が大事だと話していた。
木陰のない暮らしは、気づいていないだけで人間も見えないストレスを感じている事が数値で証明されているそう。
私が千葉にある谷津田の自然再生の活動に参加すると体は疲れるのに元気が出るのは、首都圏で感じている見えないストレスから解放されている事を体感しているのかもしれない。
これからの時代、見通しより、木陰をつくり人も動物達も過ごしやすい環境が重要視される時代になってほしい
全国で進めれらている伐採も、樹木をなるべく残し、根を弱らせない環境を考える視点も併せて取り組んでほしいと思う。