少し時間が空いてしまいましたが、またブログを更新していこうと思います。今回は貿易についての話です。国際貿易には二つの考え方があります。その二つとは、「自由貿易」と「保護貿易」です。

 

 「自由貿易」はイギリスの経済学者リカードが19世紀前半に提唱したもので、貿易の障壁となるものは取っ払って貿易を自由化し、各国が得意な製品を輸出入し合い、分業体制を築くことが互いの利益に繋がるという考え方です。実際いち早く工業化を達成したイギリスは自由貿易により工業製品を世界各地に輸出し、「世界の工場」として覇権を握りました。それに対して「保護貿易」は、19世紀半ばドイツの経済学者リストが提唱した、国外製品には関税をかけて輸入を制限し、自国産業の保護・育成をすることが重要だとする考え方です。当時のドイツは工業後進国であり、イギリスやフランスに工業化で遅れを取っていました。そのためリストは安価で高品質な外国製品が入ってくることで国内産業の発展が阻害されることを危惧し、保護貿易を主張したのです。リカードもリストも互いにポジショントークな感じがありますが、「自由貿易」と「保護貿易」という考えが成立した背景にはこのような歴史があります。

 

リカード(1772~1823)

 

リスト(1789~1846)

 

 さて、皆さんは「自由貿易」と「保護貿易」どちらが良いと思いますか? 私はと言うと、自由貿易の方を支持しています。保護貿易により外国製品には関税をかけて輸入を制限し、自給率を高めて国内産業を保護するべきだと主張される方もいるでしょう。しかし、私はこのような考え方にはいくつか欠点があると思っています。

 

 まず、保護貿易の目的が何かを考えると、国内の生産者を守ることですよね。例えば現在米には1kg341円の輸入関税がかけられており、関税率換算では280%とされています。それにより安い外国米は入ってこないため米の価格が高水準なまま維持され、日本の農家は価格競争にさらされず保護されることになります。しかし関税で価格を高くするということは、同時に消費者に高い負担を負わせることになるのです。特に日本では生活保護や就労支援制度などはあるもののアメリカのフードスタンプのような飢餓を防ぐ公的なセーフティネットは十分に整備されていないません。そのため輸入を自由化して安価な外国産の米を買えるようにし、健全な価格競争を行わせれば困窮世帯含め多くの国民の家計を大きく下支えすることに繋がるでしょう。日本人のコメの消費量は年々落ちているので、自由化によって価格を下げ、商品ラインナップを多様化すれば需要も取り戻されていくのではないでしょうか。

 

 

 また、関税を撤廃し貿易を自由化することで恩恵を受けられるのは消費者だけではありません。もちろん自動車や鉄鋼など輸出産業は海外の需要を取りやすくなるため恩恵を受けますが、例えば小麦の輸入自由化によって原価が安くなれば、小麦を原料として扱う加工食品メーカーや外食産業、町のスーパーやパン屋さんなどもその分コストが減少し得をすることになります。そうしてこれらの業界が売り上げや利益を伸ばしていけば、生産が増えて雇用や設備投資も拡大するかもしれません。このように農家を保護するために関税を設けて価格を吊り上げることは、その他の産業や消費者に対してその分不利益を強いることになるのです。

 

 また自由貿易は産業そのものの振興にも繋がります。1991年、日本政府はアメリカの圧力もあり日米貿易交渉で牛肉とオレンジの輸入自由化を行いました。確かにこれによって国内の農家はそれまでより厳しい競争に晒されることになりましたが、競争が働いた故に農家は需要獲得のための懸命な経営努力を行いました。多くの農家が輸入品に対しては価格で戦うのではなく品質で差別化を図ることを選択し、その結果「和牛」のブランド化を達成して海外含め多くの需要を獲得するに至りました。牛肉の国内生産量を見ても、輸入は増えど生産量自体はそこまで減っていないことが分かります。オレンジに関しても味・生産性の向上や、デコポンや伊予柑など新品種の開発にも力が入るようになり競争力が高まりました。自由化によって日本の牛肉とオレンジはむしろパワーアップを果たしたのです。

                          

                      

 このように、関税をなくし貿易を自由化することは経済全体の便益にかなっており、総合的に見れば良い方向に向かうでしょう。確かに、輸入を自由化すれば農家の方達は今まで通りの安定した経営ができなくなるかもしれません。しかし、それは政府が補助金をつけて農家を直接保障して対応すれば良いのです。そうして設備投資や転作の支援をしてやれば競争力も失われずに済むでしょう。実際アメリカやヨーロッパはこのやり方で農家を保護しています。メリットの大きい政策を進めていくにあたって、直面するデメリットに関してはそれぞれ個別に対処すれば良いというだけの話ですね。自由化✖️補助金というのが、産業振興に繋がり、消費者にも恩恵となり、生じる不利益も緩和されるということで、全体として最適化されると思います。少なくとも現在のような価格を吊り上げて農家を保護するやり方は、他の分野に対して負の影響が大きく効率的とは言えません。

 

 自由貿易と保護貿易に関してはまだまだ書きたいことがあるのですが、今回は長くなりすぎたのでまた次回に続きを書きたいと思います。それでは。☺️