最近、片山一道先生の新書版『骨が語る日本人の歴史』を読む機会がありました。骨考古学の第一人者で、発掘された骨を見て測定して、人類のとりわけ日本人の歴史にアプローチする俯瞰する本です。実は片山先生とは1980年半ばに大学の病理学教室でお会いしたことがありました。片山先生は発掘された頭蓋骨を持参され、いくつかの質問を受けました。医学部学生や大半の医師病理医であっても、骨を詳しくは勉強していません。医学部の1回生の時に骨学というのを勉強する程度です。それはあくまでも正常な骨です。結局、片山先生のお役には立てなかったのですけれども、その時に高校の先輩であることを知り、以後いろいろお付き合いをいただきました。
一昨年(2022年)スバンテ・ペーボ博士にノーベル医学生理学賞が授与されました。遺跡や骨の形状だけではわからない古代の人々の交流や移動が、遺伝情報に基づいて研究できるようになりました。一方で、片山先生の本を読むと、従来型古典的なアプローチは逆に新鮮で当時の生活感が浮かび上がって、大変面白く感じました。
その中に心に残る一節があったので、記してみたいと思います(一部略あり)。
「いずれにせよ、縄文時代とは、豊かな気候条件と生態条件に恵まれた時代。縄文人とは、生活の知恵と知識を高度に磨いた日本列島ならではのユニークな人々。縄文文化とは、ことに土器文化や漁撈文化などを見事に開花させた生活の総体。日本人の基底にあるメンタリティや心象風景が息づいた時代なのだ。こうした時代を有していたことを、もっと日本人は誇りにしてよいのではなかろうか。」
—『骨が語る日本人の歴史 (ちくま新書)』片山一道著
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