かつて、ヨーロッパでは死刑の執行を生業とする人達がいたそうです。

彼らの多くは世襲制により家業を継ぎ、フランスには「ムッシュー・ド・パリ」と渾名された、
サンソンという家系がありました。本書はそんな家系の7代目当主、シャルル-アンリ・サンソン
がたどった数奇な運命を描きます。

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by Nod Young

■死刑執行人とは何か?


この本は、フランス文学科卒業の著者がさまざまな文献を参考にしながら、
シャルル-アンリ・サンソンの生涯に迫る、まぎれもないノンフィクションです。

事実は小説よりも奇なりの言葉通り、とても興味深い事実が様々につづられます。
その中でも白眉はやはり、「死刑執行人が世襲制の仕事であった」という点でしょう。

死刑執行人は、その名の通り国王の任命において死刑を執行する仕事です。

現代とは違い、当時のフランスには死刑にもバリエーションがあり、
絞首、斬首に始まり、思わず目を背けたくなる八裂き系も彼らの仕事のひとつでした。

そんな彼らは、公務員であり高給取り。当時の水準で平均の10倍ほどの
年収を得ていたのです。

しかしながら、同時に庶民から忌み嫌われていた彼らは他の仕事に就くことも
できないという立場でもあり、普通、ほかの人との交流も断たれていたとも伝わっています。

死刑執行人たちは他の都市の執行人たちとの間で相互扶助の独特のネットワークを持ち、
結婚も普通はそのネットワークの中で行われたとのことです。

■国王を敬愛し、国王を断首した男


成り立ちが数奇な彼らですが、中身はどうしようもなく人間です。
中でも激動のフランス革命を生き抜いたシャルル・サンソンの人生はかなり数奇です。

彼は敬虔なカトリックであり、死刑反対論者であり、国王を敬愛する人間で
あったにも関わらず、自分の職務を忠実に遂行することでその全てに逆行することに
なります。

即ち、「汝人を殺すなかれ」という教えと、死刑反対の持論には生業として背き、
国王敬愛者であるにも関わらずフランス革命末期にはルイ16世をギロチンにかけます。

そのシーンでもまた、最後の最後まで「反乱が起きる。王派がなだれ込んで来てくれ」
と祈っているのです。

苦悩を中心とする話ですが、面白いので是非。


死刑執行人サンソン―国王ルイ十六世の首を刎ねた男 (集英社新書)
安達 正勝
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