南インド、ココナッツ産業の危機
インドのココナッツ産業が危機に瀕しています。
インドは年間150億個ものココナッツを生産し、ココナッツ産業は数十億稼ぐ一大産業です。
ココナッツ職人は、ココナッツの木に登る前、事故に逢わないように神様にお祈りをします。ゆらゆらと揺れるココナッツの木に、蜘蛛のように這いながら登り、腰布にくくりつけたナイフでココナッツをもぎ取ります。命綱なんてものはありません。一歩でも踏み間違えば、30m下に落下してしまう危険な仕事です。
インドにはココナッツをもぎる職業のカーストがあります。
ダリート(Dalit)やアンタッチャブル、いわゆる不可触民と呼ばれる最下層のカーストです。
その家系に生まれれば、ココナッツをもぎる以外に職はありません。
しかし、現在は職業が自由に時代になりました。
ケーララ州は南インドに位置する比較的繁栄している州ですが、最近はココナッツ職人が少なくなり、州の大事な産業が危機に瀕しています。
カーストがまだ残り、全ての人に教育が行き届いていない北インドと違い、ケーララ州では、カーストは次第に緩くなり、識字率は100%です。しかし、職業選択の自由により、ココナッツ職人を選ぶ人口が減っているのです。
インドでは、ココナッツの木から実すみずみまで使われます。ココナッツの根は歯ブラシになり、ココナッツの葉は編んで屋根になります。ココナッツ・オイルは食べ物だけではなく、ヘアケアやマッサージなどの美容製品にも使われ、ココナッツ繊維は玄関マットに加工されます。平均的なインド人のココナッツ消費量は1ヶ月30個です。
ココナッツの木は45日間で60個の実を付けます。年中花が咲き、実がなります。収穫時期はプロの経験と判断に任されます。ココナッツ職人は収穫時期や使用目的が判断できますが、機械はできません。
他のココナッツ生産国では、ココナッツ職人を木の上まで持ち上げる機械を使用したり、猿を訓練しココナッツを採らせます。しかし、どちらの方法もインドには馴染みません。土壌の問題やコストの問題で機械は使えず、動物保護法や宗教的な問題で猿も使えません。
ケーララ州は、ココナッツを収穫する機械を開発するために2万ドルを費やす予定で、350人を上回る応募者からアイデアが集まりました。
現在、ココナッツ農家は3万5000人おり、多くの人たちがココナッツ産業に携わっています。
ココナッツ職人が減少し始めたのは20年前からです。不可触民たちは自分の子どもたちに無償教育を受けさせるようになりました。ケーララ州は平等主義の州であり、共産主義的な政府はカースト制を廃止しました。ケーララ州の住民たちはインドでも高水準の生活を送っています。教育を受けた人たちは、自分たちの望まない職業には就きません。
他の職業が1日2ドル稼ぐ一方、ココナッツ職人は1日8ドル稼ぎます。
高収入のわりに人気がない理由は、危険をともなう職業だからです。
政府は、ココナッツ職人の職を奪う機械を作るのではなく、ココナッツ職人の保険制度や福祉を充実させるべきだと、現役ココナッツ職人は訴えます。