仕事一筋だった父親が、年に何度か、気の置けない仲間と飲みに行っていたのが、立江寺の門前町にある「ヤマコ」だった。
家の法事で「ヤマコ」の仕出し料理を食べたり、中学校の同窓会で座敷を利用したこともあったが、何か親父が語っていたヤマコの魅力とは違っている気がしていた。
そしてある時、私の知らなかった「ヤマコ」の魅力を人伝てに聞いて、なるほど、これだったんだと納得したのである。
それは、今で言う「角打ち」。
徳島では「たちきゅう」というのだが、ここ「ヤマコ」では簡易なテーブルや椅子も置いてあるので、「角打ち」と表記しておく。
「今日はヤマコに行くぞ〜!エイエイオー!」
相方の「いってらっしゃい!」の優しい声に(^◇^;)見送られて、JRの最寄り駅に向かう。
乗車駅まで歩いて10分、車中が10分、降車した立江駅から店までやはり10分なので、上手くいけば家を出て30分程でヤマコの人になることができるのだ。
しかし、ダイヤの都合もあって、立江駅に着くと午後の開店までに30分以上もある。折角なので、四国八十八ヶ所第十九番札所の立江寺をブラニンニン。
案内されるがままに、厨房のような場所を通り左に進むと、そんなに広くはない部屋があり、そこが角打ちのエリアになっている。因みに右に進むと座敷があり、宴会などもできるようだ。
開店間もないので先客さんは誰もいない。忍者、角打ちの作法もよく分からないので、「前からお酒取ってきていいんですよね。」と確認してから、冷蔵庫からアサヒスーパードライの大瓶を提げてくる。
忍者は何となく気まずい雰囲気を打破すべく、メニューボードの中から卵焼きをチョイスしてお姉さんに伝える。
「はい。卵焼きです」
お皿には卵焼きの他に、小松菜のおひたしと天ぷらの細く切ったものが添えてある。
そうこうしているうちに、1人増え、2人増え、いつの間にか、ほぼ満席だ。
忍者以外は、ほぼご常連のようで、ぽつぽつぽつと話の花が咲き始める。
すると、お隣のお兄さんが、「どちらから来たんですか。」とありがたいパスを送ってくれた。
「〇〇なんですけど、里は△□なんです。」
「ああ、そうなんやね。△□なら、AさんやBさんがよく来てますよ。」
「ああ、その苗字なら聞いたことあります。」
「お兄さんは、よく来るんですか。」
「まあ、ボチボチというか、ときどきというか、ほぼ毎日というか。(笑)」などと話がつながり、少しずつ肩の力が解れてきた。
それからは酒の力も借りて、あ〜だこ〜だと話の輪に入らせてもらう。
隣の人が青い柚子をくれたので、焼酎が合うかなと前から焼酎を取ってくる。
確か帰りの汽車は20:30発、お会計をして駅まで忍法千鳥足の術で歩を進める。ヾ(-_- )ゞ…ア ヨイヨイ!
どっかりとシートに座り、列車の揺れに身を任せていると、天国の親父の声が聞こえて来る。
「息子よ、お前の飲み方はまだまだ甘い!ヤマコを極めたかったら、もっともっと通って、常連さんの話をじっくりと聞くのだ〜。」( ̄▽ ̄)/〜
「父ちゃん、次ヤマコに行った時は一緒にやろうね。その時は、天国から美味しいアテをよろしく。」
列車の吊革に向かってブツブツと喋っている男の手には、飲み残した焼酎の瓶がしっかりと握られていたのであった。(*^ω^*)/ にんにん