妄想小説です。BLの意味が分からない方&不快に感じる方はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

 

そして翌朝、目が覚めて一番にスマホを確認してみたけれど、智くんからの連絡はなかった。

 

がっかりしたのが本音だけれど、お客様のエスコートで疲れていることは遠目でも分かっていたから仕方がないと納得する。

 

電話をかけて声を聞きたい衝動を抑えつつ、俺はM本さんに智くんを託すことに決めてメッセージを送った。

 

・・・智くん、お味噌汁は飲んでくれたかな?

 

料理に慣れないながらも心を込めて作った渾身の一作。

 

程よい塩分はきっと、疲れた身体を癒してくれたはず。

 

ぼんやりとそんなことを考えていたらあっという間に出勤時間が迫っていて、

 

「あっ・・・ヤバ!」

 

俺は慌ててシャワーを浴びてから身支度を整えて、自宅のマンションを後にした。

 

この日はなんとなく仕事に集中できなかった。

 

スマホに智くんからの連絡が来ているんじゃないかと、終始ソワソワして落ち着かない気分。

 

そんな自分を叱責しつつ業務を続けていると、閉店まで1時間を切ったあたりで見つけてしまったんだ。

 

俺の大好きな人。

 

まだ店舗まで距離があるのに、何故かその存在にすぐに気がついてしまう。

 

そんなオーラが智くんにはあるのだと思う。

 

思わず「智くん」と呼びかかけそうになって、慌てて仕事モードに切り替えてから、

 

「大野様、いらっしゃいませ」

 

心からの笑顔で彼を迎える。

 

智くんは少し照れたみたいな、困ったみたいな顔をした。

 

「お疲れですか?」

 

と声掛けすると、

 

「・・・ちょっとだけ」

 

なんだか歯切れが悪い。

 

ドキドキしながら来店の理由を聞いてみると、

 

「潤に・・・新しいスーツを買って来いって命令された」

 

澄ました顔で智くんが答えた。

 

その瞬間、俺は「しまった」と思った。

 

そうだ、智くんはスーツは1セットしか持っていないんだ。

 

視線で智くんが着ているシャツを確認すると、思った通り昨日も着ていたそれだった。

 

「うわ・・・俺、マジで最悪・・・スーツ売り場のスタッフとしても恋人としても・・・失格じゃん」

 

無意識に呟いた言葉に、智くんの身体がピクリと反応した。

 

そして自分自身が呟いた言葉に一番ビックリしたのは俺自身で、まさか公衆の面前で、しかも自分の職場でこんなことを口走る日が来るなんて思ってもみなかった俺は思いっきり動揺してしまった。