妄想小説です。BLの意味が分からない方&不快に感じる方はブラウザバックでお願いします。
・・・どっちだ?
潤は無意識に少しだけ身構えてしまうもポーカーフェイスを崩さないためか、S井はそのことには気がついていないらしい。
白を基調とした正方形に近い室内は、スチール製のデスクとデスクトップのPC、そして応接セットと小さなロッカーがあるだけのシンプルな造りだ。
廊下に設置されたドリンクサーバーからホットコーヒーを紙コップに淹れて持ってきたS井がそれを手渡すと、
「・・・ありがとう」
受け取った潤が一口啜る。
S井はPCをスリープモードにしてから潤の向かい側に腰掛けて、彼から少しだけ視線を逸らして気まずそうな表情をしていて。
潤の脳裏には智の言葉が蘇りS井が自分に好意を持っているのかもしれないとの意識が強くなる。
そうなると、ぶっきらぼうに見える態度や仕草全てが照れ隠しとか嫉妬とかの類のものにしか見えなくなってきて、対応に困って黙り込んでしまった。
それでも、
「・・・で?俺に話って?」
コーヒーをもう一口飲んでからなんとか切り出すと、
「うん・・・あのさ・・・」
珍しく言い淀んだS井に、
「なんだよ?」
訝しげに首を傾げて見せた。
S井は紙コップを両手で包み込み、しばらく考え込んだ後で口を開いた。
「・・・A葉とは・・・うまくやってんの?」
・・・そっちか!!
てか、直球で来たな・・・?
「ぶっ!!」
S井の問いかけに動揺した潤の口からコーヒーが噴出して周囲に滴り落ちると、
「うわっ・・・そんなにびっくりする?」
潤の手から紙コップを取り上げてローテーブルの上に置くと、デスクに置いていたティッシュから数枚抜いて濡れた場所を丁寧に拭いて行く。
「・・・悪い」
S井の真っ白な白衣には濃いブラウンの飛沫が飛び散っているのに、そんなことには目もくれずに跪いて先にこっちのケアをしてくれるなんて。
なんだよ、めっちゃいい奴じゃん・・・コイツ。
擽ったいような不思議な感覚、いつも自分が跪くことはあっても跪かれた経験なんてない。
そしてそのことに不満を持ったことなんて1ミリもない。
でも今のこの状況は正直、悪い気はしなかった。
「ん・・・スーツは無事っぽい。よかったな、高いスーツにシミができなくて」
そんな様子を潤は黙ってじっと眺めていたけれど、
「・・・ふっ」
短く吹き出してクスクスと笑い始めた。