妄想小説です。BLの意味が分からない方&不快に感じる方はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

個展の初日であるこの日は通常とは異なり、1時間早い9時半からお客様をお迎えするって智くんが言っていた。

 

智くんは予約が入った特別なお客様のエスコートが主な役割で、一般来場者は自由に作品を閲覧してもらう形になるんだって。

 

で、俺はスタッフ用の入館証はもらったけれど、自分の立ち位置がイマイチ分かっていないのが現状で。

 

現場でどう振る舞えばいいのか分からなくて、そういう意味でも緊張感が止まらない。

 

やがてタクシーはギャラリーに到着、俺はこういう場所に詳しくはないんだけれど。

 

もう規模的には小さな美術館といった雰囲気で、場違い感が半端なくて足が竦んでしまうような感覚に襲われる。

 

ガラス張りで開放感溢れるその建物は近代的な趣を持ちながらも、上品な雰囲気も漂わせていた。

 

大々的に掲げられた【大野智特別展】の文字が眩しくて周囲を見回すと、老若男女問わず多くの来陽者らしき姿があった。

 

その人混みに紛れてなんとか入り口に到着してキョロキョロと挙動不審な俺に、

 

「お客様・・・どうなさいましたか?」

 

と、受付のスタッフらしき女性が声をかけてくれた。

 

「お忙しいところ申し訳ありません。私はS井翔と申します・・・O野智さんの知人で・・・その、これを渡されているのですが」

 

俺はしどろもどろで事情を説明してから、智くんからもらった入館証を提示すると、

 

「S井様、承っております。少々お待ちください」

 

女性は笑顔で軽く頭を下げた後で、

 

「S井様、お越しになりました」

 

と、インカムで誰かに声をかけた。

 

落ち着かない気持ちで待っていると、

 

「S井翔くんですね?」

 

展示室があると思われる方向から人影がまっすぐ近づいてきたかと思ったら、俺の名前を呼んだ。

 

「あっ・・・はい」

 

慌ててペコリと頭を下げると、

 

「初めまして、M本潤と申します」

 

目の前に手が差し出されたから、俺も顔を上げて握手を交わす。

 

「あ・・・M本さん・・・あなたが」

 

無意識に口を突いて出た言葉に彼はクスリと笑うと、

 

「どうせ私の悪口ばかり聞かせているのでしょうね、あなたには」

 

悪戯っぽく笑ってそう言った。

 

「・・・いえ、そんなことは」

 

「隠さなくていいんですよ?怒ると般若・・・違いますか?」

 

智くんのセリフそのままの内容に瞬時に対応できなくて、でももうこれはそうだと白状したようなものだと思い至って俺は焦った。

 

けれどM本さんは気を悪くした感じでもなくプッと吹き出しただけだった。

 

そんな彼は智くんの言葉通り、とんでもないイケメンだった。