妄想小説です。BLの意味が分からない方&不快に感じる方はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

 

智くんが渡してくれたスタッフ用の入館証、受け取った時はとても嬉しかったのに、俺の手の中にあるそれが今はずっしりと重い気がする。

 

それでも智くんの個展には絶対に行きたいから、身支度を整えようと考えて、

 

「・・・そうだ、智くん・・・今日はきっと疲れて帰ってくるよね?」

 

俺は食洗機が仕事をしているキッチンへと足を踏み入れる。

 

冷蔵庫の中とか色々確認した結果、味噌汁くらいなら作れそうかなって・・・パックごはんはあるみたいだから、それをレンチンして味噌汁があれば軽食代わりにはなると思った。

 

乾燥ワカメの袋にはそれだけで味噌汁の具になるようにネギとか油揚げとか入っていたけれど、それだけじゃ物足りない気がして玉ねぎも入れることにした。

 

「えっと・・・こいつどう処理するんだろう?」

 

玉ねぎの頭から飛び出た突起物みたいな物の扱いに困惑しながらも、とりあえず皮を剥いて半分に切ってそこからもっと細かく切ってゆく。

 

「・・・痛っ」

 

急に目に痛みを感じ、これが噂に聞く「玉ねぎを切ると涙が出るって状態か」と納得しつつもあまりの激痛に我慢できなくて。

 

つい玉ねぎの汁がついた手で目を擦って、

 

「うわっ・・・!」

 

更に状況を悪化させてその場に座り込んだ。

 

「もぉ・・・俺・・・なんでこんなに不器用なんだろ」

 

玉ねぎの物理的な刺激とは別に心情的にも情けなくなって涙が加速したような気がした。

 

それでも智くんのためなら頑張れた。

 

不格好な玉ねぎを鍋で沸かしたお湯にぶち込んで、つでに乾燥味噌汁の具も入れて沸騰させてから味噌を適当に入れる。

 

お玉でグルグルかき混ぜたら、俺特製の味噌汁が完成。

 

・・・出汁?

 

ナニそれ美味しいの?

 

・・・味噌?

 

あんだけ混ぜたら溶けてるっしょ?

 

・・・味見?

 

イヤイヤ必要ないでしょ・・・だって俺の愛がたっぷり詰まってるんだから。

 

・・・と、後から潤さんに『料理下手の典型』だと指摘される行為を詰め込んだ味噌汁は、結果的に飲んでもらえなかったんだけど(涙)。

 

その後で俺もシャワーを軽く浴びて身支度を整え、渡された入館証をジャケットの内ポケットに入れてからマンションを出てタクシーに乗り込む。

 

車窓から流れる風景を見つめる俺は、ギャラリーに到着するまでの間、ずっとドキドキが止まらなかった。