妄想小説です。BLの意味が分からない方&不快に感じる方はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

不意にS井の頬にも透明な滴が流れ落ち、肩を震わせていることに気がついたカズが顔を上げる。

 

声を殺して咽び泣くS井の姿に最初こそ驚いた顔を見せたカズ。

 

けれどすぐに状況を察し、

 

「ごめんなさい・・・S井さんだって・・・ううん、S井さんの方が辛いのに僕・・・ずっと甘えっぱなしでした」

 

S井の腕の中から抜け出して、今度はカズが彼を抱き締める。

 

「・・・ヤメロ・・・俺は・・・そんな弱くない」

 

「そんな風に強がって生きて来て・・・辛くはなかったのですか?」

 

「・・・は?」

 

「・・・O野さんも思っていたみたいですよ?もっと自分を頼ってくれればいいのにって。彼はあなたの心の機微にとても敏感なのです」

 

「・・・そんなことっ」

 

「もし・・・万が一、O野さんの中に彼が帰って来なくて、僕がO野さんとして生きていく必要性に駆られたとして・・・その時もでS井さんは僕の傍にいてくれるんですよね?」

 

「・・・は?当たり前だろ??」

 

「だったら僕は・・・多分、頑張れます」

 

「・・・カズ」

 

「もちろん、彼が戻って来てくれることが大前提ですけどね?」

 

そう言ってカズが微笑みかけると、S井が面食らったように瞼を大きく見開いた。

 

「お前・・・強くなったな・・・・・・信じらんねぇ」

 

「強くもなるでしょ?急にこんな生活になって、それでもなんとかここまで来たんですから」

 

「・・・確かに」

 

フフッと笑い合った2人は、照れ臭そうに少し体を離してからカズが手に取りS井にパスしたティシュでお互いの涙を拭い合う。

 

「ホント、マジで人生・・・何が起こるか分かんねーな」

 

「でも、僕はS井さんに出会えてよかったのかも・・・O野さんの推し活できますし」

 

「おまっ・・・それな ww」

 

脱力したように吹き出したS井と、それを見つめるカズには不思議な友情が芽生えている。

 

あとは・・・各々が収まるべき場所に戻るだけ。

 

******

 

ここ最近、智は己で処理できない焦燥感に似た感情に苛まれていた。

 

・・・なんだよ、どうした?

 

智は自分の感情を持て余し、帰宅するとぼんやり過ごす時間が増えていたのだ。