妄想小説です。BLの意味が分からない方&不快に感じる方はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

智の姿を借りたカズは何かを言いかけて躊躇い視線を彷徨わせていたのだけれど、結局は何も言葉を発することなく沈黙を保ってパイプ椅子に腰を下ろしたままで俯いている。

 

「大丈夫?今日の収録のフリ、フォメーションが少し違うから先にチェックして欲しいんだけど」

 

そんなカズの姿を慮った斗真が遠慮がちにそう言うと、

 

「ああ・・・うん・・・大丈夫だから」

 

カズは顔を上げて笑顔を浮かべて見せる。

 

けれどS井から見るとカズが無理をしていることは一目瞭然、斗真と視線を絡ませ顔を顰める。

 

話しかければ答えるし、他のメンバーとのやり取りで笑い声も聞こえてくるけれど・・・何処か寂しそうな瞳をしているような気がしていて。

 

 このままにはしておけない・・・S井はそう直感的に判断した。

 

無理をしている人間のことを放っておくことはできない理由。

 

・・・それは彼が智のマネージャーだということが1番の理由であることに違いはないものの、同時に大切な友達としての関係性も大きく関係している。

 

そしてそんな辛い体験はS井自身が身をもって体験していて、だからこそS井の目にはカズが過去の自分の姿に重なって見えていたのかもしれない。

 

「斗真、今日の曲って」

 

「うん、歌番組用の特別編成的なやつ」

 

「・・・・・・」

 

「了解、O野くんの負担ができるだけ軽くなるように考え直す」

 

「サンキュ」

 

阿吽の呼吸のS井と斗真、S井は自分の意図を的確に読み取ってくれる斗真に感謝しつつ、腰を落としたままでカズを優しい視線で見上げる。

 

辛い現実と戦っていた過去の自分自身の姿にダブって見えてしまうと、放っておけなくなるのもまた人情。

 

公私混同だと言われようが、とにかくS井は智として頑張ってくれているカズのことを助けたかった。

 

同じことを考えていた斗真、振り付けを確認前のストレッチとか準備運動に勤しむ他のメンバーの方へと視線を向けると、

 

「ごめん、今日は特にO野くんの調子が悪いみたいだから。申し訳ないんだけれど、少しフォーメーションとか考え直したいんだ。みんなも手伝ってくれるかな?」

 

そう声をかけ心配げに智を見遣ったメンバーが頷いたのを確認した。