妄想小説です。BLの意味が分からない方&不快に感じる方はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

 

少なくとも危険性はないと判断した智がゆっくりと近づくも、特に逃げる様子もなくその光が智の姿を追って最終的には見上げる形で止まる。

 

「・・・猫・・・黒猫か」

 

暗闇に目が暗順応してくると、智にもその存在を視認できる。

 

暗闇に溶けるような漆黒の美しい被毛、怪しく光るアンバーカラーの瞳を綺麗だと智は思った。

 

ちょうど建物の影になる場所なのに、何故かその猫は智の視線を引き寄せるような何かを発していて。

 

普段なら見落としてしまいそうな場所と存在なのに、智は彼の存在に気がつき何故かは分からないけれど興味を唆られて仕方がない。

 

「お前・・・ノラか?」

 

智は手の甲で猫の首元に軽く触れ、

 

「首輪・・・してないのな・・・やっぱ野良猫・・・?」

 

それからゆっくりと、顎の辺り撫でてやる。

 

こう見えて動物好きな智は、彼らへの接し方を心得ていた。

 

だからか警戒することも威嚇することもなくウットリと瞳を閉じた黒猫は、顔を智の手に押し付けるような仕草をする。

 

「・・・気持ちいい」

 

猫の被毛の表面は冷え切っているものの、地肌に近い部分はふんわりと暖かい。

 

指先に触れた温もりに少しだけホッとした智は、

 

「・・・ま、意地張っててても仕方ねーか」

 

黒猫を片手で素早く救い上げると小脇に抱える。

 

何が起きたのか分からないようにキョトンとした顔をした猫の様子を一瞥して、

 

「お前がいたほうが・・・俺も帰りやすい・・・気がする」

 

智は小声でそう呟く。

 

猫の一匹くらい拾ったところで、文句を言われる筋合いもないだろう?

 

智は心の中で誰に対してというわけもなく言い訳をし、

 

「・・・けど」

 

些か剥れたような・・・複雑な表情を浮かべた。

 

いつもの毅然とした表情を崩した智、普段は周囲に一目おかれる特別な存在感を放つ彼も・・・まだ30歳を過ぎたあたりの若い一人の男性だ。

 

キュッと結んでいた口元を解き、緊張感から解放されたようなナチュラルな表情を浮かべた智は柔和な年相応の男性に見え、裏社会と表の狭間でトップを張っているようにとても見えない。

 

・・・恐らく、これが素の智の姿なのだろう。