妄想小説です。BLの意味が分からない方&不快に感じる方はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

・・・退屈すぎる。

 

智はそう呟きながら、キラキラとイルミネーションが輝く夜の街を歩いていた。

 

氷が突き刺さるような冷たい外気が智の頬に不快な刺激を与え、ダークスーツの襟元に首を竦めて暖を求めるも焼け石に水。

 

ピュンと吹き抜けた冷気にイラッとしてしまったのは、周囲がこの極寒の外気に負けないくらいに浮き足立っているからだった。

 

タイミングが悪いことに日付は2月14日。

 

世の中では【バレンタインデー】と呼ばれるこの日、その起源はローマ帝国時代まで遡る。

 

ローマ帝国クラウディウス2世は、若者が戦争を嫌がる原因を『離れ難い大切な人間が存在するからだ』との暴論とも言える自論を元に、結婚を禁じるようになった。

 

そんな若者を気の毒に思ったキリスト教司祭であったウァレンティヌスは彼らの手助けをし、内密に結婚式を執り行っていたのだ。

 

それがクラウディウス2世の知るところとなり、最終的にウァレンティヌスは処刑され、その後で彼は『聖バレンタイン』という聖人としてその名を知られるようになったのだ。

 

やがて2月14日はローマの国民が彼に祈りを捧げる日となり、14世紀頃になると恋人のイベントして定着したと言われている。

 

ただし、日本のように女性から男性にチョコレート贈るという文化は些か特殊で、百貨店の広告が元になっているということは有名な話。

 

それでもこの日は、日本中で新しいカップルが誕生したりしなかったり・・・数え切れないくらいの悲喜こもごもが交錯する日なのだった。

 

囁くように交換される愛の言葉、腕を組んだ幸せそうなカップルの姿を横目に、智はこの後の時間をどう過ごすか考えあぐねていた。

 

「・・・翔たちの怒る顔が目に浮かぶ」

 

智の頭の中に過るのは、自分より年下の部下たちの顔。

 

翔と潤、この2人は智を非常に慕っており、智も腹心と呼べるほどに信頼を寄せているのだった。

 

智は元々、とある組織に属していた。

 

だが暴対法などにより世間の目が厳しくなることを危惧した先代が組織自体を一度解体し、健全なる企業として新しく企業を立ち上げたのだった。

 

表向きは一般的な企業として機能はしているものの、その深部には決して表には出せない不健全も混在する。

 

とは言え、昔気質のヤクザではなくなった智のグループ。

 

先代の東山総長からの指名でトップに立つ智を頭として、周囲を囲む秘書の肩書を持つ男たちが、この組織のヒエラルキーの上層部分に君臨していた。