妄想小説です。BLの意味が分からない&不快に感じる方はブラウザバックでお願いします。
緊張したように体に力が入り猫が一瞬、悲しそうな顔をしたのを見て、
「だから・・・ここにいたいなら脚を拭けばいいだけじゃん」
慌てて翔が言うと、猫が力を抜いた。
「お前・・・マジで俺と会話が成立してる気がするな」
もちろん、猫が言葉を話すわけではない。
けれど表情や仕草、そして鳴き声で翔は本当にそう感じているのだった。
「・・・ん、お前、♂か」
チラッとその部分を確認した翔が、
「美人だから女だと思ったのに」
その鼻先に軽くキスをする。
「さ、脚を綺麗にして・・・部屋の中で暖まろうな?」
湯張りの操作ついでにお湯でタオルを洗って、翔は猫の脚を丁寧に拭いていくも、
「全然汚れてねーな」
外を一歩も歩いていないようなピンク色の肉球をしげしげと眺めながら、
「お前、マジでどこからきたんだよ?」
また猫に声をかけたのだった。
*****
翔は一旦、クローゼットがある寝室に入ってコートを脱ぎ、スーツから私服に着替えてリビングに戻った。
その姿を不審げに部屋の隅から眺める猫に、
「悪かったな!私服のセンスが壊滅的で!」
ガッツリ迷彩系のスウェットの上下に着替えた翔は、子供がムキになって言い訳するような口調で叫んで不貞腐れ顔を向けた。
そう、翔が振られたもう一つの原因。
それはスーツ姿がイケ散らかし過ぎているが故、少し特殊なセンスでチョイスされる私服に入るツッコミが否が応でもでも激しくなることだった。
帝王然とした佇まいからのチェンジを、『私にだけ見せてくれる素の姿・・・可愛い』と思ってくれるのか『えっ・・・ちょっとマジでアリエナイ』と思われるのか。
その評価は両極端過ぎて、翔にも予測不可な部分だ。
だったら、お店のスタッフに任せるなりなんなりすればいいのに、彼には彼の拘りがある訳で。
翔はそんな自分を丸ごと受け入れてくれる相手を切望している現実があるのだ。
恐る恐る近づいてきた猫に、
「ごめん・・・猫用のミルクはないんだ」
寒いから温かいミルクをあげたかったんだけど。
翔はそう言い訳しつつ猫缶を開けてから、器に入れて猫の前に置く。
クンクンと匂いを嗅いでから、ゆっくりと食べ始めた猫の様子に安心したような表情を浮かべた翔は、
「よかった・・・旨いか?」
優しい声色で猫に語りかける。
「それでさ・・・悪いんだけど、トイレだけは先住猫のお下がりになるんだけど」
翔が視線を伸ばした先には、紫色の猫トイレに猫砂をセットしたトイレセットが置かれている。
猫はそれを一瞥するとフッと視線を逸らした。