妄想小説です。BLの意味が分からない&不快に感じる方はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

「首輪もない・・・ちょっと待って」

 

翔はスマホを操作して何かを調べているらしい。

 

猫はそんな翔にすがるような視線を向けてはいるものの、プライドが高いのか自ら擦り寄る様子はない。

 

「あー・・・なるほど・・・こういう時は保護した方がいいのか・・・で、保健所後、マイクロチップの確認は動物病院でも警察でもできるの・・・か」

 

翔は何故かこの猫をこのまま見捨てる気になれず、

 

「15分・・・ここで待って・・・誰も来なかったら・・・取り敢えず今日はウチに来い」

 

猫の頭を優しい仕草で撫でながらそう言うと、

 

「・・・・・・」

 

猫は深くて美しい湖から湧き上がった水のようなブルーの瞳で翔を見上げた。

 

5分・・・10分と時間だけが過ぎて行き、けれど誰一人としてこの猫を迎えに来る気配はなくて。

 

「・・・仕方ねーな」

 

雪に濡れて震える猫を見かねて、翔は締め直したマフラーを解いてふわりと猫に巻きつけると優しい仕草で抱き上げる。

 

猫も抵抗するような素振りは見せず、素直に翔へと体を預けた。

 

そのまま・・・更に5分が経過。

 

翔の頭には既に雪が降り積もっていて、あまりの寒さに猫を抱く腕に力が籠る。

 

驚いたみたく顔をあげた猫に、

 

「・・・悪い・・・寒くてさ」

 

翔は赤くなった鼻先を猫の首筋に埋めて、

 

「うわー・・・なんか甘い匂いがするじゃん・・・やっぱシャンプーとかきちんとしてもらってる飼い猫だな、お前」

 

そんなことを言いながら、一人と1匹で温もりを分かち合う。

 

「・・・時間切れ・・・か」

 

チラッと腕に嵌めた時計を見て時間を確認するあたり、この翔という男は色々な面で几帳面らしい。

 

「俺の名前はS井翔・・・とりあえず、拉致決定」

 

翔はそのままスマホを操作してタクシーを手配して、到着したタクシーの運転手に事情を説明する。

 

「すごく大人しいコなんです」

 

「ええ、抱っこしていてもらえるのなら」

 

「助かります」

 

無事に交渉は成立し、翔は猫を抱いたままでタクシーの後部座座席に乗り込んだ。

 

「よかったな・・・お前、運がいい」

 

運転手さんがバックミラーをチラッと見てからそう声をかけると、

 

「にゃん」

 

猫が小さく、一声だけ鳴いた。

 

「あっ・・・鳴いた」

 

可愛い声じゃん。

 

翔は今までただ見つめるだけだった、その猫に優しい視線を向けた。