妄想小説です。BLの意味が分からない&不快に感じる方はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

「降ってきちゃったね・・・お兄さん」

 

グラスに入った酒を翔の前にサーブした大将から気遣うように見つめられて、

 

「はは・・・急に残業を言い渡されるし・・・今日はツイてないです」

 

翔は苦笑を浮かべて、酒を半分ほど飲み干した。

 

ブリとさつま揚げ、そしてシメに提供されたお茶漬け。

 

優しい味わいに心まで温かくなった気がして、

 

「美味しかったです・・・ごちそうさま」

 

マフラーを巻き直して支払いを済ませた翔は、先ほどまでとは違い穏やかな表情で店を後にする。

 

空腹状態で飲んだ最初の数口が思った以上に効いたらしく、翔はほろ酔い気分で駅へと向かう道を歩いて行った。

 

雪はサラサラの粉雪ではなく牡丹雪で、翔の髪の毛や肩に重く当たってその存在感を増していく。

 

「・・・雪だるまにはなりたくねーな」

 

つか、明日が休みって・・・俺って意外とラッキーじゃね?

 

この様子だと明朝の交通機関の大混乱ぶりが容易に想像できる気がして、翔は空を見上げて灰色の雲から落ちる雪を見つめる。

 

こうやって見ていると・・自分が空に向かって上昇しているみたいな気がするな。

 

なんて考えつつ翔は電車での帰宅を諦め、タクシーを手配することを決めてスマホをコートのポケットから取り出した。

 

そしてアプリを開こうとしたその時、

 

「・・・?」

 

視界の端で動くグレーの小さな塊の存在に気がついた。

 

道ゆく人々の中心から少し外れた場所で蹲るその存在、気になって近づいてみると、

 

「猫・・・か」

 

そこにいたのは寂しそうな瞳をした灰色の美猫だった。

 

気品ある美しい被毛はとても捨て猫とは思えず、翔にもこの猫がいわゆる血統書つきとかの類なのだろうとすぐに理解できた。

 

「・・・お前、飼い主は?なんでこんな雪の日に・・・こんな場所にいるんだよ?」

 

腰を落とした翔が右手を伸ばすと、美しいブルーの瞳をした猫は迷うことなく彼の手に頬ずりをする。

 

「・・・慣れてんのなー・・・やっぱ捨て猫じゃねーな」

 

微塵の汚れもないブルーグレーの被毛は、ほんの数分前まで室内にいたんだろうなと想像がつく感じで。


あまりにもこの寒空が不似合いで、翔はキョロキョロと周囲を見回すも飼い主らしき人物の姿はなかった。