妄想小説です。ご注意ください。BLの意味が分からない方はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

「和・・・いい加減にしろ。遅れるぞ?」

 

智は床やソファに散乱したスーツやネクタイ、シャツの残骸を見て呆れ顔。

 

「・・・だって」

 

僕はどのスーツとネクタイを合わせるべきか悩みに悩んで、この惨状。

 

管理職になってからはスーツを着る機会も増えそれなりに数も増えはしましたが、本来はさほど着るものには拘らない僕。

 

「・・・珍しいな、服に興味がないお前が」

 

智のため息混じりの呟きに、

 

「・・・娘をお嫁に出す父親ってこういう感情なんですかね」

 

僕が返すと、彼は意外だと言いたげな視線を僕に向けました。

 

「嫌じゃ・・・ないんだな」

 

そして少しだけ安心したような表情を浮かべた智。

 

「嫌なわけないでしょう?・・・智、僕を強引に誘ってくれてありがとう。こんな気持ちになれるなんて思ってもみませんでした」

 

「そっか・・・よかった」

 

「大切な人の幸せを願えることがこんなにも幸福なことだなんて、僕は知りませんでした・・・本当に嬉しい・・・でも」

 

僕は苦笑して部屋の中を見回して、

 

「どうしましょう・・・こんなに悩んだのに、何を着ればいいのかすら分からないなんて」

 

ソファに放り投げていたネクタイを手に取りました。

 

「・・・いいんじゃないか、それ」

 

「・・・え?」

 

「あんま目立ちたくないんだろ?お前」

 

「・・・ええ」

 

「だったら、その水色のネクタイは相応しいんじゃないか?派手じゃなく大人しすぎず・・・それから・・・」

 

智は部屋に視線を巡らせてから、

 

「スーツは暗い色の方がいい。ネイビーカラーのスーツに白いシャツ・・・うん、似合ってるぞ、和」

 

散らかった衣服の中からコーディネートをチョイスして、僕の体に当てて上から下まで眺めてからニッコリと微笑んでくれます。

 

「・・・そうですか?」

 

「ああ、惚れ直すくらいに似合う」

 

「・・・バカ」

 

僕よりもワントーン抑えたブラックスーツにダークグレーのネクタイを締めた智はめちゃくちゃカッコよくて。

 

・・・惚れ直すのは僕の方ですよ。

 

なんて素直に言えたらいいのに、僕はその言葉を曖昧な笑顔の下に隠してから智の顔を見つめると、

 

「ほら・・・行くぞ?お前の大切な人の新しい人生の門出なんだ・・・遠目でも・・・その会場に入らなくても。せめて最初から最後まで同じ空間で祝ってあげよう」

 

そう言って僕の左手を取ってくれました。