妄想小説です。ご注意ください。BLの意味が分からない方はブラウザバックでお願いします。
私が翔を解放すると、すぐさまカズが駆け寄って抱き起こし、大野さんは手早くお絞りを準備して手渡す。
カズがそれを受け取ると丁寧に翔の顔を拭い、そして彼を抱き締めると自分が私に向き合う形で翔の視線を私から逃がす。
翔の身体が可哀想になるくらいにガタガタ震えているのを視界の端に捉えたものの・・・とにかく、私にはやるべき大切な仕事があった。
私は翔に背中を向け久遠の方へと向き直ると、
「・・・久遠様・・・当店のスタッフの非礼・・・お許しください」
不本意ながらも腰を深く折り曲げ、90度に近い角度でお辞儀をして謝罪の言葉を述べた。
「あ・・・ああ。キミがそこまで言うならば・・・今回のことは水に流そう」
私の謝罪を受け、久遠がそう答える。
私が顔を上げた時、久遠は決まり悪そうに周囲に視線を泳がせていた。
・・・当然です。
元はと言えば、店の規約を破って雅紀に執拗に付き纏った自分が悪いのですから。
久遠だって、その程度のことは理解できているのでしょう。
勿論、翔の非礼と久遠の規約違反は別問題です。
私が久遠の悪行、つまりは雅紀への悪意ある過剰要求を指摘してから店舗への出禁を言い渡すと、途端に態度を翻し私の顔を睨みつけた。
ええ・・・そうですね。あなたは将来、大臣候補との誉も高い国会議員の先生です。
けれど、ご存じですか?
その立場は時として、たった一つの失態でいとも簡単に崩れ去る可能性があるということを。
「・・・おい、松本くん」
いくら私を睨みつけても状況が好転しないと知るや、今度は私を懐柔しようと必死な久遠に、
「久遠様のお見送りを」
ボディガードを兼務している内勤を呼び、久遠に視線で退店を促す。
流石に分が悪いと感じたのか、久遠は肩を落として内勤の指示に従い店を出て行った。
・・・翔は私と久遠のやり取りを見て何か感じてくれたのでしょうか。
己の責任を、自分の立場を考えて立ち回ることの重要性を。
翔はまだ22歳とはいえど社会へと船出した1人の大人。
闇雲に、その場の感情のみで動くようでは困るのですよ?
自分の立ち居振る舞い・言葉一つが及ぼす影響・・・今回の件で学んでくれていれば良いのですが。