妄想小説です。ご注意ください。BLの意味が分からない方はブラウザバックでお願いします。
「・・・お騒がせしました。皆さま、どうか最終までお楽しみください」
松本はそう言うと、グランドピアノを弾くことを忘れていたピアニストに視線を送る。彼が慌てて曲を奏で始めた。
「カズに大野さん、雅紀も。この後は任せます」
そう言い残すと俺の腕を掴み、そのまま地下駐車場にある松本用の送迎車に引き摺るように連れて行かれた。
・・・私服は?着替えは?・・・なんて言う暇もなかった。
俺も松本もタキシード姿のまま車に乗り込んだ。
いつ手配したのか既に運転手も待機していて、すぐに車は発進した。
黒の国産高級車の後部シートは、男2人で座ってもゆったりしている。
地下駐車場を出て、煌めくネオンサインの洪水の中を車が走り抜ける。
窓の外を流れる光の線を、それぞれ別方向を向いて眺めていた。
俺は怖くて松本の方を見ることができないし、松本は多分、怒っているから俺の方を見てくれない
。
車中は静かで運転手も俺たちも誰も口を開かない。
音楽もかかってないから、外から漏れ伝わる環境音が聞こえるだけ。
無言の時間に耐えられず、
「・・・ごめんなさい」
やっとの思いでそう口に出せた瞬間、涙腺が崩壊した。
恥ずかしくて申し訳なくて。
ぼろぼろ涙が流れ落ちる。
そんな俺を一瞥することすらなく、
「黙っていなさい」
松本はそう言っただけだった。
「・・・はい」
俺は膝に置いていた両拳を握りしめ、俯いて嗚咽が漏れそうになるのを必死で堪えた。
タワーマンション前に車が停まると、先に下車した松本が俺の座席サイドのドアを開け、身体をグイと引いた。
「おかえりなさいませ」
エントランスを通り抜け、ロビーラウンジに差し掛かると、カウンター越しに男性コンシェルジュが頭を下げた。松本と同じくらいの年代か?
ただでさえ目立つタキシード姿・・・コンシェルジュもスーツ着用してはいるものの、向こうはビジネススーツで俺たちの夜の店用のそれとはかなり雰囲気が異なる。