妄想小説です。ご注意ください。BLの意味が分からない方はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

 

アポなしで社長室を直撃した俺に、流石の大野さんも驚いた顔をしていた。

 

けど、それでも人払いをして、俺を部屋に入れて話を聞いてくれた。

 

俺と擦れ違う瞬間、女性秘書2人が奇異な目を俺に向けたことが分かった。

 

ああ・・・悲壮感溢れる顔をした噂の愛人♂が社長室に乗り込んで来たとでも思ったのかも知れない。

 

「・・・大体の話は分かった。でも退職願いは俺が預かるだけにしよう」

 

社長室内の立派な革張りの黒いソファ、大理石のローテーブルを挟んで対面で座っていた大野さんはそう言って、記入済の退職願を取ると自分のデスクに仕舞い込んだ。

 

「・・・無理なんです、俺・・・このままだと皆に・・・会社にも迷惑を」

 

「うん、そんな風に他人を思い遣れるんだから大丈夫だよ。だから、暫くは俺の傍で仕事をしなさい」

 

「・・・は?」

 

「当面は社長室預かりにしよう。今の状態だけで判断して松本を失うなんて会社にとっても大損失だからね?入社から今までの実績と信頼関係があるし、俺は松本のことは良く知っている。どうせ、お前は俺の愛人だって思われてんだろ?なら、俺の職権乱用ってことで話はつく。とりあえず2週間有給使っていいから。落ち着いたら戻りなさい、いいね?」

 

「でも、大野さん・・・」

 

それだと大野さんが悪者になりませんか?

 

なんて心配する俺を余所に、自分の秘書に連絡を取るとそのまま俺の社長室付けの辞令を出し、休暇の手続きも取ってくれた。

 

毎日10時と20時に大野さんに連絡を入れる約束をさせられたけど、俺を心配してのことだと理解した。

 

深く頭を下げる俺を優しい笑顔で送り出してくれた大野さんには感謝の気持ちしかない。

 

それから数日、俺は部屋に引き籠って鳴るはずもないスマホを見つめて過ごした。

 

心療内科を受診して処方された睡眠導入剤を飲んでどうにか眠り、起きて経口補助食品を摂った。

 

『知り合いの心療内科に連絡しておくから先に受診しなさい、それから補助食品でもいいから口にすること、いいね?』

 

これは社長室を出る前に大野さんから言いつけられたこと。

 

思考回路がまともに働かず、自分でどんなアクションを起こせば良いのかすら分からない俺にとって、大野さんの助言はありがたかった。