_ new game

→ road



つ、疲れた・・・(。-д-)
あーもう一ミリも動きたくない。
重いまぶたを開けて横を見やると、あたしの心の声を体現したかようなカズ。

ああ、もうこのまま寝ちゃいたい。








って気付いたら本気で寝てた!!
やっっば!今何時っ!?(||゚Д゚)
バッと起き上がり、棚に置かれた小さな時計を見る。22:40
よかったぁ…ちょっとしか寝てなかったみたい。
まだ終電に間に合う。


「うーーん・・ふわぁ」
隣りにぴったりくっついたかわいいこが、伸びてあくびをした。


「あー寝てたわ」


首をコキコキさせてから、お布団を抜け出しフローリングをペタペタ歩く。
冷蔵庫からミネラルウォーターを持って帰ってきた。全裸で。←


「ちょっと。パンツくらい履きなよっ」


手にした水をごきゅごきゅ飲んでカズが不服そうに言った。


「なんで自分ちで身を隠さなきゃいかんのよ」



時代が時代なら敵が攻めてくるけどとかなんとかブツブツ言ってる。はぁ、これはめんどくさいパターンだ。聞けば聞くほど何ユッテンノ なヤツだ。めんどくさいからもぉいいや。全裸で。



「さっみぃ」

足を布団に突っ込んで胸まで引き上げる。
触れる体は冷たくて。
ふたり並んだベッドの狭さが、さっきまでの行為より もっとずっと生々しく感じた。



「飲む?」
「うん、ありがと」


肘をつき、受け取ろうと伸ばした手から、逃げるように引っ込められるペットボトル。
カズが上を向いてごくごくと飲む、上下するのどぼとけが妙に色っぽい。

見惚れていると、視線が絡まりそれはあたしの口元へと移る。


あ、と思うのと同時に重ねられる唇。
薄く開けられた隙間から、とぽとぽと口内に落ちる水。
ごくっ。
こぼさないように慌てて飲み込んだ。


「もっといる?」
「…うん」


何でもないことのようにカズが言うから。
散々アンナコトしといて、いまさらドキドキしてるなんて、知られたくなくて。


くいっと一度煽って重なる、冷たい唇。
さっきより勢いよく流し込まれて、飲み込むことができずに溢れた水が 首をつたった。


それを追いかけて、口の端からあご、首元、その奥へ潜り込む。
最後の一滴まで吸われて、またペットボトルを煽り、とくとくと流される。
あたしはこくりと飲み込み、溢れた水をまたカズが追う。



カラカラに渇いた喉。
たった今、たっぷり注がれたはずの愛情は、すぐに吸収してあっという間にあなたを欲する。



カズの手が意思を持って、やらかいトコを探してなぞる。
え。またいただかれちゃいそうな勢いに、困惑して身を捩った。「ちょっ・・・」



「もーだいじょーぶでしょ?2回目、するよ。」



そう言って、あたしを崩すべく仕向けてきた。


「ちがっ、時間!終電!間に合わないって!」


引き返せなくなる前に、小さな時計へ視線を送り、器用に動く手をあわてて制す。


そんなこと、絶対わかってるはずなのに。
今まで一度だって 終電を逃すようなことがなかったのは、無言のうちにカズがそう動いていてくれたから。




「もう”終電”ってコトバ、聞きたくねぇわ」




いつだって優しさを向けられていた、その同じ瞳が、瞬間ハッとするほど冷たくて。・・・哀しくて__





イラついた表情に、秩序を乱す言動。向けられた瞳。
それは間違いなく、愛情だった。



絡めた指も、落ちる吐息も、穿つ熱も、どうして今まで気付かなかったんだろう。
こんなにも求め合っているということに。
お互いを守っていた砦が、カラカラと崩れてゆく。




あたたかく陽だまりのような恋にはできなかった。
この恋は、すべてを焼き尽くす。
カズの未来も。






汗が冷たく引いた頃、とうに日付は変わっていた。
ああ、どーしよかな、泊まるわけにもいかないよな、とボーっと考えてると、車のキーを手にして「送るよ」と、カズはいつもの冷静な声で言った。






冷たく澄んだ空気。見上げた空には琥珀の月。


カズが、ひとつ またひとつ、心を手のひらにのせ ほらごらん、と見せてくれても。
あきらめたふりをしてる私は、やっぱりずるいんだ。
この期に及んでもまだ、傷つきたくない、と。


言葉にはできない願いを、夜の闇に溶かす。




《 願い ひとつ 星じゃなくて あなたへ そっと祈る
だって それはあなただけに起こせる 奇跡だから 》




握られた右手が、カズのももの上へ置かれる。
窓には流れる外灯、浮かぶ月が追いかけてくる。
言葉もなく。聞こえるのはふたりをつないだ 懐かしく切ないゲームのサントラ。


こんなときがいつまでも続くはずはないのだと、わかっていた。





continue


negai ←リンク