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ビバッ!Friday Night!


B to da e e r !!(Oh!Yeah! (`・3・´)おうちだけど)


冷蔵庫から取り出し、さぁ飲もう!とプルタブに指をかけたとき、
リリリリーン♪携帯の着信音が響いた。


チッ!←
一番搾りをテーブルに置き、バッグを手繰り寄せ携帯を探る。






消せなかった、『二宮和也』



耳の奥で何かが破裂しそうにばくばく脈打つ。



喉が熱くて、頭は真っ白で、ただ画面に映る『二宮 和也』の文字を瞬きもせず見つめた。



鳴り続けるコール音。




震える指で、受話器のマークをスライドさせた。



「あ。でた」


たったそれだけの声に泣きそうになる。カズの声。
その声を1㎜でも鼓膜に近づけようと、携帯を耳に押し付ける。


「でてくんないかと思った」



何か答えようとするけど、喉が詰まって、声のかわりに涙が溢れた。

カズの声。

カズ。


「おーい、聞いてる?」
「ん、聞いてる」


泣いてるのバレたかな…



「今から出れない?前の、ローソンにいるんだけど」
「あ、え、っと・」


「・・・ムリならいーよ」
「じゃなくて!あたし、引っ越したんだ」

落ち込んでるみたいにボソッと言うから、あわてて答えた。


「はぁあああ??転勤とか?」
「転勤、っていうか、再就職?みたいな」


「・・・それ誰の話し」
「あたしの話し」


しばしの沈黙(汗)



「・・・で、どこいんの、今」


ため息まじりにカズが言った。





誰よりも繋がっていると思った糸は、あの日 突然ぷつり、と切れた。
それはもう、あっけないほどに。



「いまから行くわ」



まだ切れてはいなかった。



カズに会える。
それがたとえ、別れを確認するためであっても。


カズに会える。
これまでの時間も思いもぜんぶ無視して、あたしの胸は正直に高鳴った。



カズに会える。








「ご、ぶたさしてます。おじゃまします」カチンコチン
「ぶっなんだそれ」


もぉおおお、ホントなんだそれだよぉおおお!
っつーかむしろなんでカズはそんな冷静なのよ!はぁっはぁっ←



カズのにおいで埋め尽くされた車に乗り込む。


あんなにも毎日思い浮かべ、会いたくて会いたくて焦がれ想ったひとが、今、ここにいる。


何度も何度も思い浮かべた横顔なのに、あたしは見ることができずに下を向く。
ああもう泣きそう。



「ってか、色々つっこみどころが多すぎて、ちょっと何からいっていいのかわらかんわ」
「で、ですよね」


「ぶっ。だ、っからそれ一体なんなんだって(笑)」


もおおおあたしが聞きたいわ!これじゃまともに会話にならない(´;ω;`)



「ちょっとさ、車停めてちゃんと話ししたいんだけど」
「うん…近くに公園あるから、そこ停めよっか」







狭い車内に散らばった『好き』を、ぜんぶ拾い集めて あなたにみせたい。


こんなに思っているよ、と。









「降りる?」


左手であごを掴んで首を鳴らしながら言うから、運転疲れたのかな、と思って「うん」と答えた。



夜の小さな公園には、当たり前だけどだぁれもいなくて。


春の湿った空気が、若葉のにおいと混じって揺れた。
夜が季節を育てる。







あたしたちの明かりはいつも、外灯と月だけだった。
見えないように、まわりがなんにも見えないように。


薄い月明かりの下じゃ、お互いの顔すらはっきりは見えなくて。
つないだ手のぬくもりだけを、大事に握りしめてた。




「見て、空。」







朧な月がカズを照らす。


ああなんだ、ちゃんと見えるんじゃん。
月明かりの下でだって、ちゃんと見えたんだ。
あたしが、闇の中で目を逸らしていただけだったんだ。


月明かりを浴びて立ち尽くす横顔が、あんまりにも無垢で、綺麗で。



音もなく泣いた。



はずした指輪のあとに、きっとあなたは気付いてる。



「オレじゃなくて、月」


振り向いてもまだ動かないあたしを見て、月を指差しカズは笑った。ものすごく綺麗でまた泣いた。



「あの日のこと、なんにも言わないんだね」
「なんか言ってほしいの?」
「そうじゃ、ない、けど」


「オレが何にも感じてないとでも思ってんの?」
「・・・思ってない」
「じゃあわざわざ言わなくていいよ」


なんか、わかったような、わかんないような・・・


「オレなりに、へこんでた」
壁にもたれ下を向いて。小さな声は夜風にかき消された。






「なんでそっちからは連絡してこねぇの」




もう、ものわかりのいいオトナのふりも、現実から目をそらすのもやめよう。
きっと、あたしたちは臆病で、言葉が足りなさすぎた。


「・・・あたし、ホントはずるいんだよ」

「うん。すげぇ知ってる」


なんですとッ!…いや、えぇえぇそうですよね(´・ω・`)




「あたしがいたら、カズの将来がダメになる。カズにはちゃんとしあわせになってほしいよ」


「ゆみはオレんこと、しあわせにしてくんねーの?」


「だって・・・だってあたし結婚してたんだよ。それなのに、そんな、、できるわけないでしょ。あたしじゃどーしたってダメじゃん!」


もうボロボロに泣きながら、今までタブーだった単語と、恐ろしくて言えなかった本音をぶつける。



「んなのとっくにわかってんだよ」

「・・・・・・」


「じゃあもう言うけどさ、そんなん誰が決めたの?おまえが勝手に思ってるだけじゃん。」

「・・・・・・」


「一般的にはどーか知らないけど、俺は、それでもいいと思って一緒にいたよ。おまえは違ったの?」
「うぅっ・・ひっく」


もう、言葉にならなくて、必死に首を振った。





「一回しか言わないよ」




輪郭を滲ませた春の月が、カズをやわらかく照らす。
両手をポッケに入れて竦めた肩に、顔を傾けあたしを覗く。




「もう…オレんとこにおいで」




おぼろだった月影は涙で更にぼやける。



「だっておまえ、もうオレじゃなきゃダメでしょ?」




そう言って、カズは笑った。
それは世界でいちばん優しい笑顔だった。



「かっこよすぎてずるいよ。ひっく」
止まらない嗚咽の隙間にそう答えると、ニヤっと笑うその口元さえ、今日はすごく優しくて、また涙が止まらなくなる。



「ちょっと待ってて」
「ん?」


「今ゆみがいちばんほしいもん持ってきてやるよ」
「・・・」



ま、ま、まさかっ!!!(゚Д゚≡゚д゚)



・・・という思いはあっさりと散った。
差し出されるティッシュの箱。


「ほら、まずは鼻かめ」
「・・・ありがど。ずずーっずずずーーっ」


「ふはは。泣きすぎだし」
「違うもん。花粉症だもん。ずずっ」


「っとに素直じゃねぇなぁ」
「ホントだも・
あたしが言い終わる前に、カズの唇が重なった。
ゆっくり離れて、あたしをまっすぐに見る。



ああ、だいすきな茶色い目。
だいすきな垂れ下がった眉。
だいすきなふにゃふにゃほっぺ。
だいすきな薄い上唇。

だいすきな、だいすきな、だいすきな、カズ。


「だいすき」


色素の薄い優しい目が、ほんの少しだけ揺れて、ぎゅうううっと抱きしめられた。


「・・・よかった」
小さく呟いた声は震えていた。






「明日、休み?」
「うん」


「今から俺んちくる?」
「いいの?」


「いーよ。もう送ってかないからね?」
そう言って笑うと、ぽんぽんと頭をなでた。


「帰ろっか」
「うん」




ふたりで、同じ場所へ帰る。


新芽が一斉に伸びるような 春のエネルギーを吸い込んで、あたしたちは歩き出した。







おしまい