_ new game

→ road



どこかのまちで、今日もカズが暮らしてる。


そう思いを馳せる時間が、あたしのたからもの。


空を見上げ、遠く離れたまちを思う。


誰にも見えない、あたしだけに見える大切なたいせつな たからもの。


カズがくれたから、あたしは強く生きていける。







新しい町で、新しい生活が始まった。
不安だった仕事復帰もやってみれば楽しくて、毎日はあっという間にすぎていった。新しい仲間と笑う時間も増えた。


毎日しっかり食べて、笑って。
なぁんだ、あたしってやっぱり図太くできてる。



家に帰ると、真っ先にストッキングを脱ぎ、女子力ゼロのたらたらな部屋着に着替える。
ビールを飲みながらスルメをかじってると、


『ピロロロ~ン♪お風呂が沸きました』


お湯が溜まったことを知らせるアナウンスが、狭い部屋に響く。





・・・・星冴ゆる冬の夜・・・・




「ちょっとこっからでるの恐怖なんだけど」
「だよね・・・」


シャワーを浴びにいかなきゃと思いながら、お布団の中がぬくぬく気持ちよすぎて。
腕枕した手があたしの髪をもそもそ撫でる。


「だって今日雪降るっていってたよ」
「うへぇマジか」


外はきっとちらちらと白い雪が舞ってる。


「ちょっと外、見てみる?」
「余計寒くなるからいい」


ロマンの欠片もなくそう言い放つと、カズは体をあたしの方へ向けて、腕枕のままぎゅーっと抱きしめた。



「抱き枕になった気分」ふふ、と笑ってそういうと、
「えーオレが湯たんぽになってあげてんじゃん」と不服そうに言った。




「ねぇどっちがお湯張りしに行く?」
「・・・」


「さいっしょはぐー!じゃんけんぽんっ!」
突然とび出した高い声に、慌ててパーをだす。


「まぁじかよっ!
っかしーなぁ、こーすると大抵チョキだすはずなんだけどなぁ…」
グーにした手でボフッと布団を叩くと、裸のまんま、つま先歩きで浴室へ向かった。


『お湯張りをはじめます。お風呂の栓はしましたか?』
無機質なアナウンスが言い終わる前に、マッハ20の速さで布団に潜り込んできた。


「はやっ!ってか冷たっ!!くっつかないでよーー!」
「おんまえっ なんなんだよっ オレの犠牲を労われ」
「キャー!マジでやめてっ冷たいっ」


「冷たいのはおまえだわ」と言いながらあたしを抱え込み、足の裏をぐいぐいくっつけてくる。


ひとしきりぎゃあぎゃあ暴れた後、あたしはまたおとなしく抱き枕になった。
じんわりと、あたしの体温がカズの体温になってゆく。

「あったけぇ」
ちょっと体をずらして、ちょうどしっくりくる位置に収まった。


「んふふ。ぴったり」
したったらずな声で満足そうに呟く。




「ちょっと。寝ちゃだめだよ?もーすぐお風呂沸くよ」
「んー・・・ねないねない」


「絶対寝る声じゃん!ほらっ先入っていいから」
そう言って離れようと身を捩ると、カズの腕にぎゅっと力が入って捕まえられた。



ちょうどまん前に来た綺麗な顔。
ちょっと寄り目になった優しい目が、ゆっくり近づいて―――― ギリギリのとこで止まった。
鼻の頭だけがくっつく。

1、2、3、4、5・・・

だぁーー!!だめっ耐えらんないっ!ちゅーするならしてっ!
ぎゅっと目をつぶった瞬間、

「ふははははっ!ゆみのまけー」
「なっにそのゲーム!そんなん仕掛けた方が絶対勝つじゃん!」


あたしは恥ずかしさをかき消すように言い返した。




「じゃあ仕掛けてみな?」
急にオトコの顔になって、まっすぐあたしを見る。





「ほら」
くいっとあごを上げ、少し見下ろした目が綺麗な二重を作る。
「・・・」
動けずにいると、

「やっぱり俺の勝ちじゃん」

そう言って、唇をふさがれた。


それがだんだん熱のこもったものになって、本気の体勢であたしの上に乗っかってきた。




『ピロロロ~ン♪お風呂が沸きました』
アナウンスを遠くに聞いた。





・・・・



はっ!(°△°;
また考えてる。
ちょっと気を抜くと、こんな日常音にまでカズを思い出す。


季節はもうすっかり春で、フローリングも冷たくないし、それにカズはもういない。


頬の涙を拭って浴室へ向かった。



いつものようにお風呂に浸かって、もあもあと立ち込める湯気をぼーっと眺める。



カズじゃなければ、恋になんて落ちなかった、と今言ったところで、信じてはもらえないかな。



だいすきな茶色い瞳を思い出す。
よく動く器用な短い指も、ちっちゃくてまぁるい手も、耳のほくろも、
だいすきだった。



今ならはっきり言える。
この気持ちを愛と言わないのなら、あたしは一生愛なんてわからない。



今日もまた、カズのことを想って過ごした。
明日はもう少し、想う時間は減るのかな。








The next time last