30
masaki's Book
昔から弟が居たせいか、我慢にはなれていた。
どんなに大事にしていたモノも、一番に欲しかったモノも、"お兄ちゃんでしょ?"と言われれば我慢出来た。
悔しくもあったし、悲しくもあったはずだけど、人間はだんだんと慣れてくる。
俺はそうやって社会に出てからも大した欲は出さず生きて来たと思う。
それが、誰かの目には凄く優しいと思われたりしたのかもしれない。
ただ、それは優しいじゃなく、俺の中の構築された普通であって、大それた何かではなかったんだ。
彼女が出来た時も、凄く好きだったし、凄く大切だった。
だけど、彼女が誰かと買い物に行くだとか、誰かと飲みに行くだとかを告げられても、俺は"行ってらっしゃい"しか言えなかった。
興味がなかったわけじゃない。
それは慣れた我慢だったんだと思う。
だけど…
この人に関して考えると、どうもそんな風に出来る自信がなかった。
何なんだろう…この感じ。
二宮さんが、誰かとどこかに出掛ける事を許せる自分が…あんまり想像出来なかった。
『二宮さん、朝飯いつも何食べてますか?』
くっきりキスマークを付けた後、俺は一番慣れた笑顔で問いかけた。
「ぇ…ぁ、あぁ、朝はあんまり食べないんだ。結構寝ちゃってる事が多くて、気づいたら昼なんだよ」
『へぇ…』
「なっ!何だよ!いちいちジッと見るな!」
二宮さんは真っ赤になりながら怒鳴る。
以前だったら気弱な俺はビビってたに違いない。でも、今は違う。
俺の可愛い恋人なわけだから、怖いと言うより最早可愛さしか感じなくなっていた。
『ハハ、すみません。俺、良かったら作りますよ!冷蔵庫、何かありますか?』
俺達は二人で寝室を出ると、キッチンに入り冷蔵庫の前に屈んだ。
2ドアの古い冷蔵庫には缶ビールが数本。
卵が一個入っていたけど、後ろに立つ二宮さんが頭をぼりぼり掻きながら欠伸混じりに呟いた。
「卵はやめた方がいい。雛が育ってるかもしんねぇから」
俺は二宮さんを見上げてから冷蔵庫の卵に視線を移す。
つまり、いつの卵か分かんないんだな…。
『休みだし、買い物行きませんか?スーパーまで散歩がてら』
立ち上がって二宮さんに提案したら…
物っ凄く嫌そうな顔をされた。