20
土曜の夕方。
潤はお気に入りのクマさんの形をしたリュックを早くから背負ってリビングをウロウロしていた。
「ふふ、潤は相葉さんが好きだねぇ」
「うんっ!潤、いちおパパちゅき♡ニィもいちおパパちゅきもんね!」
俺はリビングのソファーに肘掛けに肘を突いて頬杖をつく。
「そうだねぇ…俺も…相葉さん好きだよ」
潤はキュウッと俺の膝に抱きついて頰をすりすりした。
イヒッと嬉しそうに笑ってピョンピョン飛び跳ねる。
潤は本当に可愛い。
ぐずると手がつけられないけど、それを上回る可愛い仕草や言葉で魅了してくるからだ。
ジャニー○とかに履歴書送っちゃおうかな…。
でも、家族だけの潤で居て欲しい気持ちも譲れない。
俺はまるっきりの親バカみたいにはしゃぐ潤を目を細めて見つめていた。
テーブルに置いていた携帯が震えて相葉さんから連絡が入る。
玄関の前に来てる。
俺は潤に声を掛けて、キッチンの母さんに行ってくると声を張った。
いつも通りに夕飯を手土産に持たされ家を出る。
扉を開けたら、相葉さんが立っていて、眩しいくらいの笑顔で微笑んだ。
毎週毎週繰り返す過ちを重ねては罪の意識は薄れて…愛情だけを欲しがってしまう。
相葉さんは潤を抱き上げて俺に言う。
『行こうか』
「…はい。」
車に乗って、いつもの道。
桜はすっかり散ってしまっていて、流れる景色は夏に向かっている。
緑が芽吹いて木々が青々と生い茂っていた。
もう何回この道を通った事か…。
何回…好きが溢れかけたか知れない。
地下駐車場に入ると、潤がぎゅっとしがみつくのはいつもの事で、怖がりながらニィ、ニィって呼ぶ。辺りが見えないようにクマのリュックごと胸元に抱きしめて視界を塞いでやる。
車から降りる時にはもう相葉さんに抱っこされていた。
部屋に入ると相変わらず綺麗に整理してあるし、良い香りがした。
潤はリビングのソファーに飛び乗ってピョンピョン跳ねる。
「こら!ダメ!」
俺にいつも叱られて、シュンとするのも束の間、すぐ相葉さんに甘えるんだ。
母さんの持たせてくれた唐揚げを差し出すと、相葉さんは1番テンションが上がる。
どうやら聞かなくても大好物だと言う事はすぐ分かった。
サラダとお味噌を作って、その間に相葉さんと潤はアクロバットに遊んだり、お絵かきしたり忙しい。
1週間待ちに待った欲求を潤は惜しみ無く相葉さんにぶつけるからだ。
3人で夕飯を食べて、いつも錯覚を起こす幸せな擬似家族の時間を過ごす。
幸せ過ぎる罪な時間。
相葉さんと潤が風呂に入り、俺は勉強を始める。
2人が上がると、3人で苺を食べて、俺は風呂に入る。
その間に相葉さんが潤を寝かしつけてくれる。
俺が初めてこの風呂を使った日…何を期待したのか、髪を死ぬほど洗って、身体も死ぬほど洗ったのを思い出す。
バカバカしいくらいにドキドキしていたっけ。
今の俺は…
もう何も起こらないのを知っている。
期待もしてない。
ただ、あの時と違うのは…
俺の気持ちは殆ど諦めに近くなっていた。
ただ、多くを望まず、側に居られるなら…
シャワーの下で髪を洗う。
毛先から束に滴るお湯を見つめながら溜息をついた。
そうしたら、脱衣所で人の気配を感じた。
俺は身体を固くして小さく蹲る。
『ニノ…』
「は…はい」
『ちょっと…洗顔フォーム取ってもいい?』
え?今?何で?って…俺の気持ちが変なだけだよな!男同士だし!
「ぁ…はい!」
ガチャンと扉が開いて脱衣所に向かって湯気が流れ出す。
白い霧の向こうに相葉さんが立っていて、スッと俺の背中越しに洗顔を手にするとガチャンと扉が閉まった。
向こう側から声がする。
『ごめんね…』
「い…いえ!大丈夫です!」
バスルームから出て行った相葉さん。
洗顔フォーム…使わないの?
洗面台に置かれた洗顔フォームをバスタオルで髪を拭きながら見つめた。
下唇をキュウと噛み締める。
相葉さん…どうしたの?