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Nino's story
何だか色々調べられてるようで、全然今どんな状態なのか教えて貰えないまま時間が過ぎた。
斗真さんと待合いで並んで座り待ち続ける。
缶コーヒーはいつの間にかホットからアイスに変わっていた。
俺は無言で斗真さんの腕の服を握りしめた。
斗真さんが俺と目を合わせて、やっぱり苦笑いして、俺を抱き寄せる。頭をクシャクシャされて
『大丈夫だよ。マネージャー、あぁ見えてボクシングとか超強いの。知ってる?』
俺は斗真さんを見つめながら首を左右に振った。
『ふふ、まだまだだなぁ〜、じゃあさ!マネージャーの事、教えてあげるよ!ね?』
首を傾げながら俺を優しく覗き込んでくる。
ちょっとふざけた風にウインクすると、優しく垂れた目をキラキラさせながら、自分が知ってるまーくんの話を一生懸命してくれた。
俺が…
不安でこれ以上
泣かない為に…。
俺はいつの間にか泣く事を忘れて、自分の知らないまーくんの話が楽しくて嬉しくてしかたなかった。
話の中のまーくんはやっぱりちょっと天然で、でもいざという時は全力でカッコイイ人だった。
『ふふ、やっと笑ったな!…もう大丈夫?』
斗真さんがポンポンと頭を撫でてくれる。
「…うん。有り難う…ちょっと落ち着きました。取り乱して…ごめんなさい。…それから…俺…」
俺は斗真さんの気持ちに応えられない事…
ちゃんと謝ろうと思ってた。
そしたら、斗真さんがやっぱり苦笑いして首を左右に振る。
『もう…良いって。分かってるよ、振られる事くらい。でもさ、ニノくんの口から聞きたくない。もう…言わないから…俺も。』
「……斗真さん」
隣の席に座る斗真さんはちょっとうなだれてる。
それから、急にピシッと座り直して、ピッと指を俺に向け鼻先をツンと弾いてきた。
『兄ちゃんだな!』
「え?」
『ニノくんさ、兄弟は?』
「あ…姉が1人だけ」
『だったら良かった!俺、ニノくんの兄ちゃんにならなれんだろ?』
俺はポカンと斗真さんを見上げた。
『側に居られたらいいって事。俺の事さ、兄貴だと思って…頼ってよ…ダメぇ?』
女子の声真似までして、首を可愛らしく傾げて笑いを取ろうとする斗真さん。
「んふふ…ダメじゃない…ダメじゃ、ないです!…俺、兄貴欲しかったから…すっげぇ頼りますよ?」
『どんとこいよ!』
斗真さんがウインクしながら胸を拳で叩く。
俺は口元を手で隠しながらクスクス笑った。
そこへ、看護師さんが歩みよってくる。
「よろしいですか?…どうぞ」
俺は斗真さんの腕の服を掴むと目を合わし、立ち上がった。
個室に通され、中に入ると、まーくんが点滴に繋がれてスヤスヤ眠っていた。
白衣を纏った男性が後ろから入って来た。
「大した事はありませんでしたが、以前肺気胸を患ってらっしゃいますね…過労で軽度の再発が…息苦しくて失神したのはそのせいでしょう。2.3日入院したら、後は経過観察の程度です。あまり…無理をさせないように。」
「あ、ありがとうございます…」
先生が部屋を出て行く。
俺と斗真さんは頭を下げて見送った。
ベッドにゆっくり歩み寄ってキューっと抱きしめる。
「まーくん…良かったぁ…頑張り過ぎなんだよ…バカ…バカぁ…ぅ…よかっ…たよぉ…」
やっぱり我慢出来なくて泣き出した俺の頭に…ふわっと大きな手が掛かる。
シーツに顔を埋めていた俺はゆっくり顔を上げた。
まーくんがニッコリ微笑んでる。
俺の髪に指先を通しながら…
『ニノ…また泣いてる』
「まぁ…く…ん」
『こっちおいで…ぎゅって…してあげるから…泣かないよ』
「まぁ…くん…まーくんっ!!まーくんっっ!!」
ガバっと首に腕を回し抱きついた。俺の身体にまーくんの腕が絡まる。
まだ高い熱が肌から伝わる。
『良い匂いだなぁ…ニノ…好きだよ』
「寝ぼけてるでしょ…大変だったんだからね!」
『あぁ…ここ…病院だ』
「もう…いいから、休んで。俺、側に付いてるから。斗真さんもねっ…ぁ…れ?」
振り返ってみると、斗真さんの姿は無かった。
立ち上がって病室の外まで探したけど、静かな白い廊下が続くだけだった。
『ニノ…』
扉に捕まって立ち尽くす俺にまーくんが呼びかけて来る。
ゆっくり振り返って…ニッコリ微笑んで呟いた。
「まーくん…俺、まーくんが寝てる間に兄貴が出来たんだよ」
ベッドのまーくんも微笑んでる。
『ふふ…斗真?』
「そ、斗真兄さん。俺の知らないまーくん、いっぱいいっぱい教えて貰ったよ」
ベッドの側の丸椅子に座って頰を寄せた。
『ニノの…知らない俺?』
「そう。俺の知らないまーくん」
まーくんが俺の頰を撫でる。
『ニノは…全部知ってるよ。俺の全部…』
頰を撫でる手が俺を優しく引き寄せる。
俺はまーくんに…
キスをする。
いつもよりずっと熱い口内。
「んっ…」
離れた唇
見つめ合う瞳
『愛してるよ…』
「…俺も…愛してる」
クスっと笑ったまーくんが満足そうにゆっくり目を閉じる。
また…気持ち良さそうにスヤスヤ眠るから
俺はそのサラサラの髪を優しく撫であげてから、シーツに突っ伏して同じように目を閉じた。
椅子に座って丸めた背中に陽だまりが降り注ぐ。
まーくん…早く家に
帰ろうね…。