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夕飯を食べないでいつまでも酒を煽っていた。

きっと潤も酒を嗜んで楽しい時間を過ごしてる。

それを今までの俺なら咎めて来ただろう


ニノのように苦しめたに違いない。

だからこそ

潤に同じ思いをさせる訳には行かないんだ

俺は頭を抱え込んだ



頭では良く分かっていた。


心がそれを分かればどんなに良いだろう。

俺の中の不安が餌になり、いつしか泥酔するほどに酒を飲んでいた。


グラスを床に叩きつける。

砕けた音が懐かしくて

俺が幸せになるなんて間違いだと思い知らされるようだった。


荒んだ汚い感情が良くお似合いで

俺に信頼だとか、信用だなんて言葉は似合わない。


潤は酒を煽り、女や男と戯れているに違いない。

俺を裏切って、良い男だか女かを捕まえてホテルにでもこもってるかも知れない。


そしたら、俺なんかと時間を過ごしている事がバカバカしく思えて


俺を捨てるかも知れない。


悪い妄想は瞬く間に広がっていく。

少しだけ残った理性が囁いてくれるんだ。


"大丈夫…"



何故だか、死んだはずの母さんが俺を抱き寄せ頭を撫でる感覚に更に涙が込み上げて嗚咽を殺して泣いた。


大丈夫って言うのは


理性じゃない


あれは


母さんの声



ガチャン


玄関の鍵が開く音がして、扉がゆっくり開いた。


聞き慣れた足音が近づいて、リビングのフローリングにうずくまる俺の側で止まった。