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もうすっかり夜になって


まーくんが俺にコーヒーを入れてくれる。

「ありがとう

まーくんは苦笑いにも近い笑顔で俺の頰を撫でた。

『大丈夫?

俺は小さく頷く。


ダイニングテーブルに置いたままの携帯が鳴った。

メールが1通。


「櫻井さんからだ

 


"悪い、中々手こずった

今向かってる。"



潤くんをこの部屋に連れて来るのはきっと大変だったんだ


電話にも出てくれないくらいだもん当然だよな



こんな時に何だけど

俺の裏切りを知った後櫻井さんの家に行ったり、電話に出るクセに取り継ぎは櫻井さんにさせたりここへ来る為の櫻井さんの説得を受け入れたり



潤くんもしかして


俺は携帯をまーくんに見せた。

まーくんはうんって頷いてくれる。



暫くしたら、チャイムが鳴った。


その音は聴き慣れたはずなのに

ビックリするぐらい胸を締め付けた。


玄関の扉を開く。


「よぉ。」

「櫻井さん


立っていたのは、櫻井さんだった。

その後ろに背を向けた潤くんが立っていた。

首が項垂れた状態の後ろ姿の潤くん。


「俺は、出てるよ

櫻井さんが苦笑いしながら親指を逆手に外へ向ける。


俺は首を横に振った。


「入ってお願い」


俺の言葉に櫻井さんが小さく肩を竦めた。

「潤くん入って

潤くんが動かないもんだから、櫻井さんが、潤くんの肩に手を置いた。

「潤入ろう。ここに立ってる訳にも行かないだろ」


ゆっくりこっちを振り返る潤くんの瞳はユラユラと涙をためて揺れていた。