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まーくんを追い返して…
久しぶりに自分の家でシャワーを浴びた。
頭にタオルを被った状態で携帯を充電器に差し込んだ。
画面がいつぶりかに光る。
電池のマークが赤くて、そのままソファーに膝を抱えて座ると髪をタオルで拭いた。
ブンブンと何だか携帯が騒がしい。
ここ何日も機能させてなかった機械が怒ってるみたいだった。
タオルで頭を拭きながら片手に携帯を持つ。
画面を見て俺はタオルで口を塞いだ。
「何…これ」
ラインと着信は余裕で100件を超えてる。
そのどれもがまーくんと潤くんだった。
順番に開いていく。
内容はほとんど同じ。
どこに居る?
誰と居る?
心配してる。
連絡くれ。
当然の流れだよね…
急に…恋人が家に帰らず携帯にも出ないんだから。
でも…今までだってそうだった。
潤くんとどうにかなる前は、本当に毎日が煩わしくて、ただ、ブラブラ生きて…
結局男を渡り歩いて一か月家に帰らないような事は良くあったんだ。
だから潤くんは
気づいてる。
最後に送られて来てるメールは
"別れるつもりなんだろ?…何がいけなかったのか知りたい。俺とおまえは…変わらないから"
決して納得してるとは思えない内容だったけど…俺との幼馴染みとしての関係は変わらないって言いたいらしい。
潤くんらしい、気の遣い方だった。
まーくんからのメールを見るのは、凄く怖かった。
最初こそ同じだった。
心配と、所在を聞く内容。
後半からの内容に…
目を疑った。
"あの日飛び出した事、後悔してる。パニックだった。"
"ネックレスを見た瞬間、血の気が引いて、両足が震えて、本当に驚いてしまって…"
"あのオモチャ…俺もまだ持ってる。弟の事を忘れた事はないんだよ"
"頭がおかしいと思っても構わない。会いたい"
"俺にとってニノは…弟じゃないんだ…俺の好きな人として 会って欲しい"
"変態だよな…でも、もう止められない"
"どこに居るの?話がしたい"
"愛してる"
携帯を持つ手が嘘みたいに震えて、画面を見れなくなる。
携帯が足元に落ちて、力なく口から言葉が零れ落ちた。
「な…何…こ…れっ…ぅゔっバカじゃないっ!!バカじゃないの!!!バカっ!バ…カだ…よ」
バスタオルで顔を覆い蹲る。
しゃくりあげるように息をするのも苦しかった。
さっきまで、ここに居た愛しい人は、離れている間にこんな風に結論を出してたって言うの?
俺達は孤児で
俺達は兄弟で
俺達は
何者になろうって言うんだよ。
そんな事、あっていいわけ無いのに…
まーくんはきっと、諦めたんだと思ってたのに…
光なんて指さないよ?
誰にも知られるわけにはいかないよ?
そんな関係が、向日葵みたいに笑うまーくんに
相応しいわけないのに…
俺は彼の手を
離したくない。