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櫻井さんの買ってくれた薬が効いて、俺はかなり眠っていた。

朝になってもまだボンヤリしていた。

携帯にも誰からも連絡はない。

寝室から出て、リビングのテーブルに視線を落とす。


まーくんが剥いたウサギのりんごが皿の上で佇んでいた。


まーくん俺のネックレス持って行っちゃった


まだ怠い身体をソファーに寝かせた。


俺はもう、本当にまーくんに会っちゃ行けないんだ


クスクス笑って、手の平で顔を覆う。

「ククッふふ本当、馬鹿みたい馬鹿みたい


消えてしまいたい。

今すぐに。

この瞬間に


幸せになって欲しいとあんなに願ってた兄貴は


こんなにもすぐ側に居て


俺を幸せにしていた。


あんなにカッコよくなって


俺を好きだって、本気で言うんだ。   


幾ら泣いても、涙が枯れない。


昔からずっとそうだ。

幾ら泣いたって、辛い事は変わらない。


夕方までそんな風にだらしなく過ごして、

身支度を整えて夜の街に出た。


まだ微熱っぽかったんだけど、全然自分に興味が持てなかった。


携帯の電源を落として、潤くんがあまり出入りしないクラブに来ていた。


すぐに相手が捕まって、ホテルに入った。


簡単に


簡単に安心は手に入るよ。


シャワーを浴びて肌を重ねるんだ。

「持ってたら欲しいなぁ〜良いやつ、s exが楽しくなるヤツ

『良いのがあるよ。クセになんなよ』


怪しい錠剤を受け取る。

暫くしたら、目が回る感覚

相手の男に脚を開かされこの上ない薬の効果で快楽は何度も絶頂をむかえた。


あぁ、これで良いんだ。

俺は、男にだらし無い、生きる価値の無いような、そんな人間。


思い出してた。


潤くんの気持ちを守りたくて、柄にもなく、まーくんを拒み、潤くんと付き合ってるフリをする。

そんな茶番はお終いだよ。


俺は簡単に身体を使って欲しい物を手に入れられる。


気持ちなんてクソ喰らえだ。


そこにはもう



戻らない。

あぁ違った戻れない。


もうまーくんは、まーくんじゃなくて


兄貴なんだから。