カランコロン
店の入り口扉についたベルが鳴る。
店内はオレンジ色の暖色を使った照明。
カウンター席にはアンティークな木製の椅子。席は4席並んでる。
カウンター席の後ろにはボックス席になった向かい合わせの席が3つ。
こじんまりとしていて、昭和の純喫茶を思わせる全体的にアンティークを基調とした造り。
簡単に言えば、今時あまり見かけない古臭いタイプの喫茶店だ。
「いらっしゃいませ」
店の入り口前には今時珍しいくらいに分厚い看板。白を背景に緑の筆記体で店名が描かれ、てっぺんで赤色灯みたいなランプが点滅している。
この看板はさすがにダサい。
俺でも分かる見解に相葉さんはクスクス笑って渋くない?なんて言ってた。
店の名前は Atom
なんでアトムなの?って聞いたら昔飼ってた凄く大きな白い犬の名前って言ってた。
他にも何匹か飼ってたみたいだけど、店名にするなら1番響きが良いって理由らしい。
名前まで本気で昭和の純喫茶らしいよ…
相葉さんは弁当屋さん、コンビニ、配達屋、清掃員、その他にも、びっくりするほど仕事をしてお金を貯めこの店を開いた。
俺と出会ったのはその仕事の最中。
最初は偶然が重なっただけだと思ってた。
本当に良く会うなぁって。
だけど、蓋を開けたら相葉さんは俺に一目惚れしてくれていたらしく、後をつけた事もあるんだって。それには俺もビックリしたけど、最終的には俺も…
相葉さんを想うようになっていた。
で、なんで今俺が客に挨拶したかって?
まぁ、惚れた腫れたで今は同棲をしていて…
結局、人件費がどうだとか上手いこと言われ、俺は仕事を辞め、この店を一緒に手伝っているからだ。
ピッチャーに入ったレモン水をグラスに注ぎカウンターに出す。
「コーヒーでいいの?」
俺の無愛想にも取れる言いっぷりに客がカウンターに頬杖ついて呟く。
『いいけどさぁ~、お前もうちょっと可愛く言えない?』
「なぁ~んで潤くん相手に可愛く注文とんのよ。いっつも同じなんだからどんな風に聞いたって一緒だろ~」
『おっま!ほんっと可愛くねぇな!』
相葉さんがまぁまぁまぁって奥のバックルームから出て来た。
サイフォンの準備をしながらおれの頭をポンポンする。
『相葉さん、こんな奴のどこが良いわけぇ~?俺、絶対付き合いたくないタイプはニノ!』
「俺、オマエ!」
『もぉ~喧嘩しないのっ!ニノ、裏から豆持ってきて』
「むぅ~!」
『へっへーだ!』
俺はバックルームにブツブツ言いながらコーヒー豆を取りにいった。
麻袋に詰まった香ばしい豆をスコップですくう。
ザラザラっと音を立ててザルに取り分ける。
『ニノってさぁ、本当恋愛向いてないタイプだったから心配してたんだけどさぁ、よく捕まえたよね?…なんか雰囲気変わったもんなぁ…』
相葉さんがカップとソーサーを用意する手を止めて潤くんに聞く。
『どんな風に変わった?』
潤くんは頬杖ついてう~んと悩んでから笑った。
『前より…綺麗になったな。男に言うのもへんだけど、柔らかいっていうか…うん…なんか前より良い』
『クフフ、言ってあげたら喜ぶよ』
『ヤダょ…恥ずかしい』
俺は出るタイミングを見計らって店に出た。
「また俺の悪口言ってんだろ」
つい憎まれ口しか言えない俺。
でも、なんだかんだ学生時代から潤くんは俺に甘い…。
だから、人付き合いの悪い俺なんかと未だにこうして友人でいてくれるんだ。
『言ってねぇ~し』
相葉さんに豆を渡しながらフフっと笑ってしまう。
俺はカウンターの中に置いてある椅子に掛けて潤くんと向き合う。
「で?今日もお目当の方待ちですか?」
ニヤニヤする俺に潤くんは入り口をチラリと流し見た。
『別に…そんなんじゃねぇ~もん』
「素直じゃないなぁ~」
『お前にだけは言われたくないっ!面倒臭いの代名詞!!』
「誰が!」
『あぁ~もぉ~ハイハイ仲良くしてね!はい、潤くんコーヒー。と、ナポリタンはサービスね』
カタンと音を立てて潤くんの前にソーサーに乗ったカップとお皿が置かれた。
『相葉さんっ!サンキュー!いただきます!』
丁度お昼を指す時計の針
一般の会社は今から昼休憩が始まる時間。
俺たちの店もそれなりに人気店の1つで、昼は混み合う。
満席になるのは平日なら当たり前だった。
潤くんはナポリタンを食べながらチラチラ時計を気にしてる。
俺の予想だと、後、数分。
しばらくすると、入り口のベルが心地よく鳴る。
カランコロン