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仮に、1950年代に存在した英国車の中で、最も代表的な中軽量クラスのモーターサイクルを選ぶとすると、348ccのOHVシングル・BSA-B31が適切といえるだろう。しかし、それは余りにも魅力的なスタイルのGold Starの影響を受けてか、取りたてて話題に上ることもなく、平凡で長きに渡る生産を終えることとなった。
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1945年8月に発表されたB31は、本来は決してオーソドックスといえるモデルではなかった。特許を取得したばかりの最新のオイルダンパー内蔵式のテレスコピック・フォークをフロントに持ち、それ以降生産される多くのモーターイクルにも影響を与えることとなったからだ。リアは従来通り、定番のリジットフレームのままではあった。が、操縦性はどのモデルと比較しても大幅に向上していたと当時のモーターサイクル誌の多くにも語れている。本来ならば、もっと適切に正当な評価が与えられるべきだったかも知れない。そのスポーツ性は、350ccクラスとしてはトップレベルのものだった・・と。決して満足とはいえない戦時中の備蓄燃料(73オクタン価)を用いながらも、6.8:1の圧縮比から最高70mph(112.63km/h)のスピードを発揮できたのだ。
前身のモデルは、実に1940年まで遡ることとなる。が、449ccのGold Starの影は未だ微塵もない頃のことだった。348ccのB29・Silver SportsがB31の前身となるが、戦時中のことであり、B29もまた軍用モデルとしてほとんどが徴用され、一般的なモデルとしての正当な評価を得るこはなかった。戦争の終結と共にB31が生まれることとなるが、当初は未だ、一般的なコイル・バルブとヘアピンバルブ・スプリング・タイプを用いており、多くの改良の余地があったことも事実だった。
1946年1月になるとB32がデビューするが、これは事実上トライアル用のコンペティション・モデルだった。特徴となるのは、シート下にまで引き上げられ配置されたエキゾーストパイプ。グランドクリアランスも確保され、ギア比も低めに設定されている。価格は少々高めではあるがきっちりと100ポンドとされていた。
1949年のシーズン中に発表されたB32スペシャルは、アマチュア向けのレース仕様として制作されたもので、リアにはプランジャー・タイプのサスペンションが新たなシステムとして組み込まれていた。更に、シリンダーには軽合金のバレルとヘッドが与えられ、クロスレシオのギアボックスも装備されていた。このB32スペシャルが正式にB32-GS・Gold Starに成長して市販されることとなる。さて、標準型のB31の中でも最も美しいとされたのは、1948年型モデルであろう。シルバーペイントのフューエルタンクに、ゴールドとブリテッシュグリーンのラインを配したモデルだ。リジットのままのフレームだったが、強化されたフレームをリアホイール・ラグに伺い知ることができる。
時が流れ、B32-Gold Starの開発が進む中、B31は時代に取り残されたマシンとして忘れ去られていくこことなる。セパレートタイプのプッシュロッド・タワーがいかにも古めかしいものと映るようになったのも事実だ。1953年になっても変更されたのは燃料タンクのみで、クロームメッキの処理が施されたパネルを両サイドに持ち、グリーンの配色は赤に仕上げられていた。リジットからプランジャー・タイプのリアサス、そしてピボット・フォークへの改良は一度限りの事だった。
出力は、依然として18bhpを示す平凡なもので、それは皮肉にも稼働するパーツにとって十分な耐久性を与えるだけのものとしか言いようがなくなっていた。実際のところ、オイルと燃料を欠かすことがなければ、このマシンは半永久的に走り回る事が出来る能力を持っているとさえ言えるものだった。1953年の変更は、あまりにもおぞましいものとさえ言えるものだった。プラスチックのタンクの出現は、どこか間の抜けたものにさえ映る。
唯一好ましく映ったのはヘッドランプ上に配したセミカウルの存在となった。これ以降、1956年までの間目新しい変更はなかった。BSAの漸進的(ゆっくりとした)合理主義の現れによって、マシンはどこか積極性を欠いたモノとなっていく。B33(499cc)にあっても、シリンダボア以外全てにおいてB31と共通のものだった。
1950年代後半にいたっても、BSAはB31に僅かな可能性があると信じていた。1958年、これまでのマグネット点火を放棄し、クランクシャフトに設置したコイル式点火を採用。より優雅な燃料タンクとフロントフォーク上部に設けたヘッドランプと一体化したカバーデザインの採用により、イメージチェンジに成功した。しかし、惜しいかな新型B31は、2シーズンのみでその生産を止めてしまった。1960年代を迎えられたのは、499c cのB33に加え、348ccと499ccのGold Starシングルだけとなってしまった。B31は、新たなOHVをパッケージングしてくると誰もが期待していた。しかし、250ccのC15からの発展は、B31のもつオリジナリティに匹敵するものはなく、普遍的影響を与えることもなかった。

