どうも人間六度です。
ちょっと今回は文学系の記事だしクソ長いしだいぶ内輪なので
その点だけご注意を。
まず今回の記事についてですが
ゲンロンSF創作講座という有料の講座があり、その受講生が毎月お題に則って小説を書くのですよね。で僕はダールグレンラジオという創作講座を応援するラジオに出演させていただいた関係で全部通しで読みました。そこでそれぞれラジオで話せるようにメモをしたのですが、せっかくなのでそのメモを公開しようと思いました。
今回のテーマは「弔い」だったそうです。
僕自身、デビューしてはいますが全く文章が上手いと言えるはずもなく、今も勉強の途上にいると強く思っています。だからこそ、大学の友達に意見を求められた時みたいに真摯に、忌憚なく意見が述べられるのかなと思っています。
なので本当に包み隠さず書きましたし、自分に領域が近いものほど厚くなってるので、その辺偏りがめちゃめちゃあるのですが、本記事はゲンロン外の人間がゲンロンの小説を読むとどうなるのかという一つの意見程度としてご活用いただけたらありがたいです。
じゃあ初めていきます。
ヤクザバース・トランザクション
やたらとルビが多いのは演出だとは思うけど忍者と極道のパロディ? 出てくる設定はどれも素晴らしく面白い。僕は本当にこういうのが好きで好きで仕方ないので、本当に面白いと思う、たまらなく愛おしい。
でもそういう僕は少数派だ。
数字で言うと限りなく0に近い、市場の存在しないに等しい評価軸。それが内輪ネタというもの。
この小説は面白さが設定に終始している。「ぶっ飛びSF」ではあるんだけど、シナリオにSFがほとんど関与していないのがもったいなさすぎる。「連勤術師」などのギャグが足を引っ張っている。
:
長谷川さんの作品は目を引くようにデザインされている。でもそのデザインが人間関係や細かなSF的ロジックまで降りてきていない。パッケージに割くウエイトが大きすぎる。
つまり設定厨だ。
僕も設定厨だ。
これは本当に僕自身が陥りがちなことで全く人のことは言えないので、自戒のつもりで言うんだけど、設定厨は、設定で面白さを語ることをやめない限り、長編でしっかりしたものを仕上げるのが相当きついのではないかと思う。僕がまさに今ハヤカワ新作で突き当たってる、これから突き当たるであろう壁もそうだ。
:
僕は日芸に入ってこういう作品をいっぱい書いた。小説を書く人間には評価された。でも普段純文学を読んだり、SFに触れていない人たちには全くと言っていいほどウケなかった。
最初はなんで理解してもらえないのか憤りさえ覚えたし、そうやって長い間考えないようにしていたけど、普通に答えは出ていた。すごくシンプルな話で、自分は少数派だったのだ。っていうか僕はその少数派であることをかっこいい生き方として振り翳していたし、それに自覚的でさえあった。そこで自己肯定感を掠め取っている以上、大衆から「わからない」と突っぱねられるリスクを常に背負っているということに自覚的でなければならない。
内輪ネタで回していくうちは、永遠に内輪の温室から出られないのではないか……。
:
設定に現実味はないが、それは間違いなく魅力だ。
ブロックチェーンとヤクザのこの絡ませ方は、あまりに秀逸だと思う。どう考えても面白い。
でもこのまま中編なり実作にすることは難しい。なぜならドラマがSFではないから。問いかけていることが別にSFではないから。ヤクザ映画とブロックチェーンをただ言葉の上で絡めただけ。設定を開示されたときに「面白そう」止まりで「感動」がない。映画で言うと「ヒューマンロスト人間失格」みたいなことになってる。
バーチャル・ライフ
「ありえない世界」への道標を描き出してくれていて、これは面白かった。実態のない体と実態との対比は腐るほどあるけど、この話は「現実世界と仮想世界との成長の時差」を描いていて、そこがマジで面白い。時折入る主人公の目線がとてもナチュラルでそこもよかった。
これは連作短編とかにして長編化もできそう。1ジュブナイル→2家族の話→3世界の動乱という具合に広げてもいける。ワクワクする。
すごくよかったです。
真珠の小指を燃やす
*すでに本人に伝えているのでここでは割愛します*
最後の砂漠が死んだ
他の実作に比べてかなり「シナリオがSF」のタイプの話だった。そういう意味でスケールがデカく面白い。ハードボイルドなのでキャラが萎縮して見えるのは僕のせい。コアの設定の納得感がやや少なかった気もする。もう少しネチネチ説明してもよかったかもしれない。
メゾンMの終末について
始まりは素晴らしく巨大だが、どんどん局所化していく話。バーチャルライフとは逆の構図をとっている。
やりたいことはわかるが、世界崩壊のプロセスがちょっとよくわからなかった。あとは羅列するような会話がよくも悪くも特徴的。宝石のたとえは秀逸で、これが作者の立ち位置になりうる強度のある視点かなと思った。
暗い森の骸たち
孤独死監視センターは面白いけれど、そのネタを掘り下げることなく「埋葬師」というゴーストバスター的なものに終始しているのが勿体無い。「孤独死監視センター」のリアルを描くだけでも一本かけるのに。
あとラストのオチ的なものを「そうか、おまえは俺だったのか?」だけで回収するのはちょっと弱いかなと思った。
文体の問題として、主語が重複しているところと、異なる主語が入り混じる部分があって読みづらかった。
:
たとえば、
幽霊男の声を背中に聞きながら神崎は家に向かって歩き続ける。コイツの言う森ってどこなんだ? 俺が知っている今の日本にある森といえば、あそこしかない。と考え続ける。
帰り着くと一人の男がドアの前に立っていた。もう一人幽霊男が現れたのか? 面倒だなぁーと思いながら神崎は男の背中に近づいていく。すると、男が振り向いた。男の顔を見て神崎は立ち止まる。一瞬考えて「あ、あんたか」と神崎は言う。二〇歳の神崎に埋葬師の任命通知を届けにきた無表情の男だった。
この部分
神崎という文字が重複しまくっている。もっと削れるはず。今自分が誰を視点に置いて書いているのかをもっと考えるといいのかなと。
宇宙の果ての金字塔
今僕がリアタイで読んでるからかもしれんけど「零號琴」っぽい。
文章うまい。クソデカ葬儀の話。反物質は言うほどガジェットとして機能していないが、マークとストルフの対比が取れていてキャラも立っているので面白く読める。
二人の生に対する向き合い方がメインなので反物質は別に反物質じゃなくてもいい。ラストも穏やかで安定はしていた。
:
反物質がSFとして機能していないという点をわかりやすく示しているのがここ
⬇︎
「それだけ分かれば十分だ。反物質を利用し始めた人類の次の課題は、いかに反物質生成のコストを下げるかということに集中した。そこで革命ともいえる技術を生み出したのが、アルベルトという研究者だった。かれが何をしたのか。当時の地球では、二つの先進技術に注目が集まっていた。一つは外宇宙への進出のための宇宙開発技術。そしてもう一つが、人の脳とオンライン空間を接続する電脳技術だ。アルベルトはその二つを組み合わせ、誰もがやろうとしなかったことをやった。反物質を生成する粒子加速器の領域は、その時点で、AIの助けを得たうえですら、もはや人類に把握できるものではなかった。粒子という極小の世界。そして超高速。さらには人類が扱うには過ぎた極大エネルギー。アルベルトは粒子加速器と自らを接続し、反物質を感覚で捉えようとした。かれは後に語っている。『その時、粒子加速器はまるでわたしの血管となり、電子の流れは血流となった』のだそうだ。数年間、体の不調を乗り越えながら、かれは反物質が生成される最適なシステムと保存方法を発見した。一度システムが発見できれば、AIにより容易に再現が可能だ。かれの発見はすぐに現場の宇宙開発にフィードバックされ、大きくコストを下げた状態で長距離航行が可能となった。さて、ここからは君も知っている範囲のことかもしれない。アルベルトとはのちの皇帝だ」
この長さの会話文を入れておきながら、反物質を扱う技術として描かれているのは
アルベルトは粒子加速器と自らを接続し、反物質を感覚で捉えようとした。◀︎この一文だけ。
反物質というネタを使うならもっとちゃんと調べて深いロジックまで書いてほしいし、それが大変ならもっとサラッと流してキャラクターの言動とかに注力してほしいなと思った。
わたしは孤独な星のように
死んだ叔母と、そして叔母の友人。彼女と旅する話。
「北極星になりたかった」はエモかった。
SF的な要素も「コロニーの動かない部分」というところが面白い。なのでもっとそこを掘り下げて欲しかった感がある。
:
叔母との関係性は書けているのだけど、もっと身につまされるものがあるといいのかなと思った。というのもラストがツンデレ叔母の隠された思いを解き明かすという部分にあるので、やっぱ叔母とのリアルタイムの生活を描いた上で、叔母が死んでしまい、というプロセスを踏むべきだったのかも。
この手の作品は最後の開陳の部分でどれだけ「感情のセットアップ」ができているかだと思います!
書葬
全ての実作の中で最もキャラに対する書き込みが丁寧で、心情の動きも丁寧。こなれ感もある。一番商業作品に近いと思ったけど「書けない」が全てを台無しにしてしまった。なぜこうなった…
キャラの心境は深く描けていると思う。神話的なSFで、書葬というアイデアに丁寧に寄り添っている。別にSF的な面白みはないが、主人公の淡い思いなどをさらっていくだけでも十分楽しめる。連打さえなければ一番面白かったまである。
:
全体的に「男性の気持ち悪さ」みたいなものが石碑に刻まれるように描かれていて、解像度が異様に高かった。(そこがいい)
ここに出てくる女性に悪意がないのに対し、男性は明らかにヴィランとして出てくるので、唐突感がある。
:
「書葬」というタイトルは、のちにある「死後過労死」と同じぐらいパワーのあるアイデア・キーワードだと思うので、こういう天才的なワードを思いついた時点でやることはいかにすごいことを書くのかではなく、いかに減点を減らすかになると思う。
「書葬」というのがすでに面白いので、納得感のあるストーリーをただ描き通して欲しかった。タイポグラフに魂な売らずに。
死神の葬列
冒頭すぎたので判断を控えます。
死肉を啄む
だいぶウォーキングデッドだった。
キャラの展開がいまいちだったけど、屍肉をリソースとして考えている鬼畜さはとてもよかった。何かこう、もう少し話をシンプルにして、かつその鬼畜さをメインテーマにするといいのかもしれない。
たとえばこの鬼畜さを持つキャラが主人公orヒロインで、他の人たちが解決法を思いもつかない中で死肉を食えばいいじゃん、と提案してくる、みたいな。そして死肉による経済が生まれ、死肉を効率的に生産するために社会全体が動き始める、みたいな。カニバリズムというパンチの強いネタを持ってくるなら、その狂気を貫き通してほしい。
:
文体について
世界が定めた残酷を相手に生き延びるためには学ぶべきことはやまほどある。
↑
この部分など、ちょっとオリジナリティのある文体が目立った。個人的に文体でオリジナリティを出すことはおすすめしない。読みにくい。
あと、腐った干し肉、というのが
干し肉なら腐るよりもカビが生えるとかの方が合ってる気がした。
また、
一足先に食事を終えて父が席を立つ。その瞬間を見計らってポケットに準備していた袋で肉料理を包みとった。先週お腹を下してから実践している、父にバレずに夕食を終わらせる苦肉の策だった。
というところも、ウォーキングデッドの世界で日本の高校生の弁当事情みたいなことが語られているのがちょっとチグハグな感じがした。
霊能者毛塚クオンの葬送
序盤から中盤にかけてとても面白かったのに、途中からパロディが増え過ぎて萎えてしまう。もったいなかった。
言葉だけを借りてくることがパロディだと思われがちだけど僕はそうは思っていなくて、もっと形式的なところまで踏襲して初めて意味があると思う。言葉だけのパロディがあるとテンションが下がってしまう。
:
この小説はパロディが邪魔しているのはあるが、例えば「インディアンと断髪の話」「パイプクリーナー」とかも、いい感じにSFでかつ突き放している感じがあってよかった。この突き放している感じ、遊んでいる感じ=「余裕」がヤクザのやつと違うところかなと思う。
パロディの全部が悪いわけじゃないと思った。その一例として、
赤い封筒と青い封筒の話のシーン
あと、葛城さんがスキンヘッドなのも面白い。キルラキルの「ヌーディスト・ビーチ」を彷彿とさせる出おち感。
これらは、「これ面白いでしょ」の押し付け感がなかったので、面白いパロディかなと思った。
悪いパロディの代表は、終わりのエヴァのところ。
まず「集合意識」っていう話がよくわからない。強引。終わり方はただ投げたようにか見えない。
毎夜、アンデッドは忘れない
アンダーテール感がちょっとだけあった。(それよりはディズニーの骨が出てくるやつとかか)
スケルトン=命なきものの葬送というテーマは、何かもっと広げる余地があると思った。個人邸にはその部分がコミカルに描かれているのでもったいなかった。
アンデッドは、人間の精神的な力である創造力と想像力の強さとバランスによって人間界に生み出され、他のアンデッドとの交流の中でアンデッドランドへやってくる。アンデッドたちは、創造主、もしくは他の人間の想像の中に納まっているうちは存続できる。つまり創造主に忘れられても他の人間が覚えていれば存続
できる。一方で、創造主に忘れられると、アンデッド側の想像主の記憶がなくなってしまう。
↑
この設定は面白いけど、
ゾンビシャークの話とかもだいぶコミカルになってしまっている。これがスポンジボブみたいなアニメだったらいいんだけど、文章でやるには向かない話のチョイスだったかもしれない。
:
私は大切なものをなくしたけれど、死にたいとは思わない。もしも私以外のアンデッドが全て消えてしまっても、私は彼のことを、この喪失感を忘れない。自分が存続することが、ジャックが存在した証なのだから。
↑
ラストが独白になってしまっているのがよくないのかな、と。独白って基本的にすごいつまんないじゃないですか。行動、最低でも対話、にしなければラストがものすごく薄っぺらいものになってしまう。
短編で独白していいのは、せいぜい5行くらいなのでは……。(私見です)
father’s apology 2054
死とデータを関連付けたのは安直だけど面白い。
私が逃げていた「事実」がわかった。のあたりがちょっと書き込みが浅いのかな、と。
死後過労死
アイデア自体がよく、運用もだいぶできているといった印象。「私が増殖する」はキャッチーかつ起こりうることで、しかも過労死という高い現代性を有するところも文学とSFのいいとこどり感があった。
キャラクターもイカれた連中しか出てこないので、楽しい。こういうイカれを貫いた作品はとてもいいと思う。
ただ僕は「私が増殖する」周辺で具体的に何が起こっているかちょっと想像しずらかったというのはあった。ロジックの書き込みが少し浅いかもしれない。あと望美をタイポグラフとして使ったところと、幕引きの方法。時間がなかったのだろうか。俯瞰するのではなく最後まで「展開」を書き込んでいればもっといいものになったのかなと。
翠に焦がれたギンリョウソウ(改題)
精緻な筆致。BLに持っていきたいという意図が強いのでもう少し場面場面を丁寧にするといいのではと思った。具体的には雲上が自殺したときのクラスの反応など。あのシーンだけでもっと描写が書き込めるはず。
小説は作者の意図が透けて見えた時点で「うぇ」となるので、それを隠すためにもっと文字数でカバーすればいいと思った。文字数でカバーするというのは僕は、必然的な描写の中にいっけん必然性のない描写を入れることで、雰囲気という情報を書き込むことだと思っています。
人類解剖
ネタがいいので形にして欲しいです。
その口紅に託した思いは
不幸な女に体を乗っ取られる話。人情もの。SFではなかったので何ともいえないが「イケイケの男子像」にはしっかりとした解像度があった。そのキャラに主人公が押され気味だった。
弔いというより弔いを拒絶する話だったような。
ワイルドハントの幽霊犬
ちょっと僕には難しい話だった。(最初の印象)
読んでいくうちにこの時代ならでわの悍ましさと魅力が出てくるけど、なんだろうな、文体もの構成もジャーキーみたいに凝縮されてる感がある。
僕が感じたとっつきずらさは、この物語は幽霊犬ハンスとヒロインのアンナとの関係性がメインであるはずなのに、二人の邂逅までが長いという点。
でもこれは難しいと思う。なぜかというとこの物語は読者に理解させなきゃいけない点が
1ヒロインの背景
2ハンスの背景
3ハンスの背景にあるワイルドハントの背景
この三つがあって、短編だとその説明に大半がさかれてしまうというところ。
中編ぐらいの長さにしたらちょうどよかったのかも、とか思った。
アンナとハンスの関係性が良かったので、関係性の変化、および二人の「冒険」をもっと見たかったなあ、と。
愛の♡メモリー
機械犬は可愛く描けていて、キャラクターの心情も書けているなと思った。ただ文章の情緒が時折おかしくなるところと、肝心のロボット犬の解像度の低さが気になった。
たとえば、
思春期手前の微妙な年頃に両親から買い与えられて以来、姿形の変わらぬこの子の、年を取るさまがたまきにはわかった。
⬆︎
どういうふうに歳をとるの? というところが知りたいのだけど、それを読者に投げている。こういうところこそ書き込んでほしい。
貴様よりも価値のある狗なのだ。そのために働いている。〈りゅうのすけ〉をさて置いてなぜわたしが終業後に他人の相手を?
⬆︎
たまにこういう暴力的な一人称が入るんだけど、この辺の情緒がよくわからない。作者にエゴが前に出過ぎていると思う。
へそ天
⬆︎
スラング?なのか、自作言葉なのか判別しずらい語彙も目立つ。
そのほかにも、プチ麦のエピソードがやや強引に感じた。これはなんのために書いたんだろうか、と思えてしまう。付け焼き刃で未来感を出そうとしてそれらしい単語を出したように見えるけど、読者が感じるのはなんだこの変な言葉は、というところだと思うから、プチ麦という単語を出すより、それがどういう外見をしていてどういう食感でどういう流通経路でどういう栽培方法で、あたりを自然な形で文章の中に埋めてほしい……です!!
そんな感じです。
僕という不肖作家が人を判ずるというのは僭越至極なのですが
僕という一読者が人を判ずるというのはフツーのことだと思うので
今回は読者目線に寄せたつもりです。それも「ゲンロンの前提を汲まない読者」であることを徹底したつもりです。
誰かの参考になればありがたいです。
僕も色々勉強になりました。ありがとうございました。