*母の記録*

 

2014年6月5日

TBIとセットで移植前に最後の抗がん剤治療を今日から4日間行います。

6日から2日間 2時間のキロサイド点滴

8日から2日間 2時間のエンドキサン点滴と、エンドキサン投与による膀胱炎予防のためにウロミテキサンの注射です。

点滴が多いせいか病院食もわざと半分残しているのに体重が落ちず心配していましたが、水による体重増加は仕方なく内臓脂肪ではないので大丈夫と言われ安堵しました。

 

今回移植に際し、前開きのパジャマの用意が必要なため、主人が2セット買ってきました。

今このパジャマは主人が着ています。

 

 

 

*僕の記憶*

 

痛みなく細胞を穿つ不可視の力、放射線。

それを浴びて、生殖能力を失ってもーー別になんともなかった。

怖いくらいなんともない。

普通に朝が来て、普通に飯を食う。

 

けれど僕は、自分の中から決定的に何かが失われたことを知っている。

生物の本質はなんだろう。よく考える。

自分を守り、似たものを増やし、一生を終える。あるいは考える消化器官。

ご丁寧にもマズローが三角形にして説明してくれた。三大欲求。

生き物は、自己を再生産する。

似たものを作りだす。

増える。

その機能が損なわれてしまった。

僕は今後どれだけ努力しても、自力で子を得ることはない。

多くの人が普通にできることが、もうできないのだ。

 

これは、この闘病は、

ロケットの打ち上げに似ているのかもしれない。

大気圏を脱出するために、第二宇宙速度を得るために、少しずつ自分の体の機能を切り離していく。

助かるために、やりたかったことを少しずつ諦めていく作業――。

 

 

そんなことを考えながら、体にこれまでにない量の抗がん剤が投与されていく。

気持ち悪さはそんなに早く来ないはずなのに、凄まじい量の薬剤を見るだけで、吐き気が込み上げてくる。

諦めろよ。

生きるんだろ?

だったら、捨てていけよ。

 

生存試験。

ふと、そんな語が頭に浮かんだ。