*母の記録*

 

2014年1月10日

移植をするため骨髄バンクでドナーを探していた主治医から

息子のHLAは白血球の頭の型が合う人は多くいたが、細かい型まで合う人はいなかったと

結局バンクで適合する人は見つかりませんでした。

HLA遺伝子型検査報告書をもらいましたが、母方つまり私のルーツの方が日本人では珍しい型であると聞き

息子に申しわけなく感じました。

息子は一人っ子のため兄弟はいません。兄弟の場合でも4分の1の確率らしいのです。

奇跡を信じ私の姉と姉の長男が検査をしてくれましたがいずれも適合しませんでした。

ドナーがいない絶望にかられましたが主治医が臍帯血を確保してある。

臍帯血移植は型が細かくあわなくても移植できるし、既に凍らせてあるものを使うので

こちらのタイミングの良い時期にできるので悲観することはないですよと言われました。

 

☞HLA➡白血球の型

赤血球にはA型、B型、AB型、O型などの血液型があり、輸血の際には血液型を一致させないと

いけないが同様に白血球をはじめとする全身の細胞にはヒト白血球抗原(HLA)と言われる型があり移植には患者とドナーのHLA型の一致する割合が関係してくる。

造血細胞移植ではHLA型のA座、B座、C座、DR座という4座(8抗原)の一致する割合が重要。

HLA型は両親から各座半分ずつを遺伝的に受け継ぐため兄弟姉妹間では4分の1の確率

非血縁者間では数百から数百万の確率でしか一致しないと言われている。

 

*造血幹細胞移植情報サービスより抜粋*

 

 

*僕の記憶*

 

ノーベル文学賞作家のカズオイシグロの作品『わたしを離さないで』という小説がある。

 

 

その小説には、はっきりとは書かれないけれど、臓器移植のために育てられている子供たちが登場する。『わたしを離さないで』は、その子供たちの中でもとりわけ優秀な主人公が、誰かに臓器を提供するために生かされる友達たちを見送っていくという物語だ。

 

僕はその話の仄暗い部分がとても好きだった。

同時に、『わたしを離さないで』に描かれていることは、荒唐無稽な思考実験だとも思っていた。

 

でも、違った。

 

それは現実問題として、僕の前に立ち塞がる問題だった。

 

移植には、提供者(ドナー)と、被提供者(レシピエント)という二つの立場がある。

 

そしてたいていの場合、提供者は都合よく見つからない。

 

けれど絶望はしなかった。

 

治療なんて、なるようにしかならない。

 

だから僕は耳を閉ざしていたのだ。

 

全部を医者と親に任せ、自分はベルトコンベアーに乗ってただ運ばれていくのを、待つみたいに。