*母の記録*

 

2013年11月1日 

看護師の友人から抗がん剤治療が始まる前に《精子保存》をしておいた方がいいと言われすぐに婦人科に予約を入れ受診しました。

突然の発病で動揺し精子保存することなど彼女に教えてもらわなければ知る由もありませんでした。

8年経った今でも年に1度更新の手紙が届き、精子保存料約1万円を振り込んでいます。

息子にも子供を持つ可能性がまだあるのです。

 

また病名が悪性リンパ腫ではないため、耳鼻科の予約をキャンセル。

部屋は耐性菌の検査結果が出るまでは1人部屋を利用。

夕方高校の友人の佐藤くんが一番に会いに来てくれました。

 

 

 *僕の記憶*

 

精子保存ってやつがある。

やり方としてはシンプルで、

まず三日くらいの禁欲期間をもうけ、当日丸型のタッパーみたいなものを渡されて、その中に出してください、と。

 

僕も一応、知識としては知っていた。

医療モノのドラマでは、たまに出てくるから。

ただ、それを行う機会が自分の人生に登場するとは、つゆも思ってなかった訳で。

 

この時に残した精子が、

これから子供を作る場合に頼れる唯一のものだということを考えると、

どうしてもっと真剣な気持ちになれなかったんだろう、と思う。

(まあ、真剣になったところで何ができた訳でもないのだけど)

 

佐藤くんは、この時医学部を目指す浪人生だった。

僕のために泣いてくれた、親友だ。(写真には写ってないけど)