磁石です。
ピピ、ピピ、ピピ
3度だけ鋭く鳴った電子音に、はっと目を覚ました。
仕事、の文字が頭を掠めて一瞬焦ったけれど、いや今日は久しぶりの完全オフだったよな?と、もう一度目を閉じる。
回らない頭で昨夜を思い出すと、そこそこハードなスケジュールをこなして日付が変わった頃に家に帰りつき、先にベッドで寝息をたてていた恋人を抱きしめて眠ったはず。
何時だ?まあ、いいか。もう少しこのまま…。
だけどこのまま放っておけば、昨晩解除し忘れたこの電子音はまた繰り返されるはず。
まだ動けないと苦情をあげる右手のケツを叩き、時限爆弾と化したアラーム時計を探すためにポフポフと手探りで寝具を叩いて回ると、
「……ん」
隣から、鼻にかかった甘い声。
起こしちゃったか、と思いつつ捜索を続ける。
そうしたら、傍らのシーツがもぞもぞと動いたかと思うと、俺の手に柔らかく温かい感触が重なった。
思わず目を開けて片手を見ると、シーツの中から伸びた手が俺の手を握ってる。
シーツの白に反射するその肌の滑らかさに、改めて目が覚めた。
うつ伏せに寝転んでいるニノを見る。
「……はい、どうぞ」
乱れた黒髪の間から眠たそうにこちらを見た目が、しょうがないなあというようなため息とともにすぐに閉じる。
え。いや俺今、時計を探してたんだけど…
再びすうすうと寝息をたてる、シーツに埋まる横顔と、やんわりと絡められた指。
起きた瞬間に俺が、お前の体温を探してたと思ったの?
普段、天邪鬼な俺の恋人は、愛情表現には少し慎重なところがあって、あからさまに甘えてくることはレアケース。
それだけにこの予想外の展開に棚ぼた的な感動を覚えながら、親指でその丸っこい小さな手を撫でた。
「はい、どうも」
俺の声に、ふふ、と口角で微笑んだニノは、寝ぼけた様子で手繰り寄せた俺の手の甲に、すり、と頬擦りをする。
おい、昨日の俺。
アラームを解除し忘れたお前だよ。最高か。
これこそが不可抗力っていうやつだ。
目の前の愛しい塊をシーツごと抱きすくめてキスの大雨を降らせたら、気怠げな天邪鬼もやめろと嬉しそうに転げまわる。
「ちょ、…っと待って、しょうちゃっ」
身を捩ったニノのシーツを本格的に剥ぎ取ろうとした時。
ピピ、ピピ、ピピ
ニノの枕の下から、鋭く3度のアラーム音。
素早く手を入れて確認すると、やっぱりそれは紛れもなく探していた時計で。
何でここに?
俺がそっちに気を取られている間に、シーツを奪還したニノはまたがっちりとそれにくるまっている。
思えばこの時計はいつもサイドチェストが定位置で。
「あの、二宮さん?」
頭から被っているシーツをつんつんと引っ張っても返事はない。
それなら、とその薄い布地越しにウエストのラインを指先でなぞる。
ピクリと反応を返したかと思うと、ニノは目元だけをのぞかせて言った。
「…それ。1周分くらい、今日は俺にくれるんでしょ?」
手の中にあるアナログの針は7を回ったところだ。
視線を戻すと、その姿はまたシーツにくるりと隠れてしまっている。
「ギリ2周分。もらってくれない?」
そっとアラームを解除すると、サイドチェストに役目を終えたそれを戻す。
「明日もこうやって、可愛く起こしてよ」
そっとシーツを捲ると、やんわりと首に絡んできた腕に引き寄せられる。
心地よい感触とともに、休日の朝の気配を吸い込む。
今日一日は仕事を頭から追い出して、目の前の愛しい人と時間を忘れることにしよう。