にのあいです。いつかの6月。
相葉さんは誰にでも優しい。
昔っからそう。
まあ人がいいのよ。
自分で人見知りだなんて言ってるけど笑顔の中心にはいつも相葉さんがいるし、人を不快な気持ちにさせるなんてこともないし。
仕事でちょっと無理めなお願いをされたりなんかしても、とりあえずやってみよっかって何でもチャレンジするし。
疲れてる時だって、具合が悪い時だって、笑顔で人と接することができる。
これってすごいことだよね。
俺だったら穏便に、角が立たないように、なんだったら角が立ったって断るようなことも、この人は違うから。
何でも飲み込んじゃうんだから。
そんな相葉さんを俺は堂々とバカだとか何とか言ってきたし、若い頃はじゃれあいみたいな喧嘩をしたりもしたけど、そんな俺にもずっと優しいんだから、やっぱり相葉さんってバカ…じゃなくて、ほんと根っからいい人なんだろうね。
今だってほら、知り合いのシューフィッターから借りてきたとかいう測定器で、俺の足をあれやこれや測ってくれてる。
みんなからの誕生日プレゼントに何が欲しいか聞かれて、ちょっといい靴が欲しいって言った俺のために。
ニノも忙しいだろうからって、収録の合間に計測してデータを送るとかなんとか。
「ニノ。足、もうちょい前」
楽屋の椅子に腰かけた俺の前に屈み込むその頭頂部をじっと見つめる。
なんだそれ。
つまんねーの。
俺にいい靴欲しいってお願いされて、ここまで手間かけて本当にいい靴作ってくれるってなんだよ。
前みたいにさ。
少しサイズ間違ってるくらいの適当なスニーカーを適当にプレゼントしとけばいいじゃん。
だいたい知り合いのシューフィッターってなによ。
俺の知り合いにはシューフィッターなんていないよ。
ほんとつまんない。
…相葉さんの手が足首に触れただけで易々と跳ねた俺の心臓くらいつまんないよ。
昔は違ってた。
相葉さんは基本優しいんだけど、俺にはものすごく雑な時もあって。
お互いの関係性が近いからこそゆるくなることってあるけど。
相葉さんは人一倍、気遣いの人だから。
だからこそ、その雑さが逆に居心地が良かった。
それなのに、相葉さんはいつの間にか俺にまでほんとに優しい人になっちゃってるから。
「あれ、おかしいなあ。ニノ、ちょっと足あげて」
「はいはい」
「あ、もちょっと右」
「……」
甲斐甲斐しく動くつむじを人差し指でぐにっと押してやったら、ちょっとコラッ!なんて手で払いのけられる。
期待通りの反応に、ふふふ、なんて笑いながらもじっとして。
だってこんなのもう素直に感謝しなかったら人じゃないでしょ。
「相葉さん、…ほんとありがとね」
「何改まってんの?ニノちゃんの誕生日だよ?」
ぱっと顔をあげ笑う相葉さんは、積み重なったいい人が染みついちゃって、相葉さんなんだけど俺の知ってる相葉さんじゃないみたい。
「ほんと、こんな手間かけてさあ」
「ね!でもほんっといいんだよこの靴!」
なんでも相葉さんもお気に入りの革靴らしい。
同じものを俺にもって、目をキラキラさせて話すから。
ねえ相葉さん。
20年前の我々に、オジサンになった相葉さんは俺の誕生日に超オシャレなセミオーダー革靴をプレゼントしてくれんだよ、なんて言ったら信じるかな?